「読売ワークシート通信」のメールマガジンから、記者コラムの一部を紹介します。
記者は、何のために
2020年9月16日
コロナ禍で仕事を失う人が増えてきました。8月末で5万人を超え、中でも派遣やパートなどの非正規社員が継続の契約を結べない「雇い止め」が急増しているようです。
こういうニュースを聞くと、実は心が痛みます。経済部で記者をしていた時代、非正規雇用の拡大を助長するような記事をたくさん書いてしまったかも知れないと思うからです。
1990年前後、バブル経済の頃ですが、高齢化に伴う将来の労働力不足への懸念に加え、好況下での極端な人手不足もあって、「雇用の流動化」という言葉がはやりました。
子育てが終わったお母さんや、いったんは定年退職した高齢者も職場復帰できるように、勤務時間などの働き方を柔軟にした、正社員にこだわらない、つまり、"自由な働き方"を浸透させよう、という話です。筋の通った話なので、新聞やテレビも好意的に報道しました。
ただ、その後、流動化の波は女性や高齢者にとどまらず、20~50代の世帯主層にまで広まってゆきました。企業にとっては、非正規社員の方が、何かと出費が少なく済むので、競争力を高めるのに不可欠な経費節減の決め手の策になったわけです。
非正規社員には確かに"自由な"面はあるでしょう。でも、冒頭のニュースのように不況になれば、真っ先に職を失う危険性が高いと思います。あのリーマンショックの時も、東京・日比谷公園に、雇い止めされた人たちに向けて「年越し派遣村」ができたのをご記憶の方も多いと思います。
私というか、新聞記者の多くは、何のために活動をしているかと聞かれれば、世の中の人が騙されないように、安全に暮らせるように、政府や企業が言っていることにウソやウラはないか、もっと改良点はないか、をウォッチするため、と答えるでしょう。
なので、随分と注意をして国や企業がやることを見つめているのですが、それでもコロッと騙されることがあります。「雇用の流動化」では、まんまとやられ、平成時代に非正規雇用の人の占める割合は約20%から約40%に急拡大してしまいました。
この流れを変えるのは、かなり困難ですが、せめてもと、大学や専門学校で講義をした際には、学生たちに何かにつけて、「正社員になりなさい」「会社は安易に辞めてはいけません」と諭します。先生たちも、もし、そんな話になったら、子どもたちにうまく、お話をしていただくことは可能でしょうか。(重)
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