沼田 晶弘
第64回 イルカたちの跳び箱(1)
♦跳び箱を飛ばせるのは難しい
小学校で子どもに「跳び箱」を飛ばせることの難しさは、多くの先生が感じていることだと思います。ネットで調べると、跳び箱指導だけで本が何冊も出ているくらいですから、現場の先生たちの悩みがわかります。
今回は、ボクが考えている「跳び箱の飛ばせ方」を紹介します。
子どもが跳び箱を飛べないのは、まず第一に「怖い」からだと思うんです。だったら、その怖さを取ってあげることから始めなくてはいけません。
「クラス全員に、跳び箱5段の台上前転やらせるから!」
ボクがこう宣言したのは、昨年10月、まだ教育実習生がいる頃です。それを聞いた実習生のH先生は内心「えー、本当に?」と思ったそうです。クラスの中には運動の得意な子も苦手な子もいます。普通に両手を突いて開脚で飛ぶだけでも全員クリアは大変なことなのに、台上前転って......。ちなみに台上前転とは、その名の通り、台(跳び箱)の上で前転(でんぐり返り)をして、向こう側に両足で着地すること。当然、普通に飛ぶより難易度は高いのです。
「大丈夫。今年も保護者の前で『イルカショー』やるから!」とボク。
イルカショーが何かについては、また後ほど......。
♣ぬまっち式・マット積み重ね練習法
跳び箱を組み立てます。子どもにとって5段以上はなかなか高い! |
子どもは、一度のチャレンジで失敗すると、早々に「自分はできない」と決めつけてしまい、チャレンジすること自体が嫌になってしまうことがあります。失敗することで周りの目を気にしたり、ケガをすることが怖くなったりってこともあると思います。
だから、「何度でもチャレンジしていい」という環境を作ること、「何度でも飛びたい」と子どもに思わせることが大事です。プロ野球の選手だって、ヒットを打ちたいという目標があるから、何度でも素振りをしたくなるわけです。
跳び箱5段の高さは、中型で90センチ。小学3年生の平均身長は120~130センチなので、身長の7割くらいあります。かなりの圧迫感です。その「怖さ」を、どうしたら克服することができるのか。
実は、跳び箱の怖さとは、高さそのものより「台から転げ落ちる」怖さなのです。だから、跳び箱の周りを分厚いエアマットで固める方法があります。落ちる練習も一緒にしちゃうというわけです
もう一つ、ボク流のやり方をご紹介します。
最初は跳び箱を使いません。体育用マットを折って、積み重ねて、6段相当の高さにします。それを跳び箱に見立てて、前転の練習をさせます。マットの方が横に広いので、回りそこねて体勢が崩れても、横に落ちることがない。つまり、怖くありません。怖くないから、何度でも繰り返すことができます。
えっ、どうしてマットを6段の高さにするのかって? だって、6段の高さに慣れれば、5段の跳び箱が低く感じるじゃないですか!(笑)10センチくらい低いはずです。
恐怖とは心理的イメージです。例えば幅30センチの板が、100メートル上空のビルとビルの間に渡されていたら、普通の人はまず歩けません。でも、その板が地上にあったら、酔っ払っていても簡単に歩けるでしょう。それと同じです。「なーんだ、思ったより低いじゃん!」と子どもに感じさせるための「心理的仕掛け」が6段分のマットなんです。
♥一度でも気持ちよさを味わえれば
ボクが脇についてるだけで、子どもたちは安心して飛べます |
それでも、初めて5段の跳び箱を飛ぶ時は、子どもは怖い。そこで、ボクが跳び箱のサイドに付きます。
「大丈夫、6段分の高さ飛んでんだから、行けるよ!」とボクは声をかけます。「ボクが支えるから、絶対に横に落ちないから!」
意を決して走ってくる子どもが踏切板でジャンプし、跳び箱の上で前転します。勢いが足りなくても、ボクが手を伸ばしてサポートします。頭を入れるサポートと、腰を上げるサポートがコツです。子どもの体はきれいにクルリと回ります。あっ、気持ちいい! 着地した子どもがビックリしています。
この気持ちよさが大事なんです。1回これができれば、何度でも練習したくなる。1人で前転できるようになるまで、もう一歩です。
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