ぬまっち先生コラム65 イルカたちの跳び箱(2)

これが「イルカショー」。この見事なシンクロを見て!(2016年12月7日、世田谷小で)

沼田 晶弘


第65回 イルカたちの跳び箱(2)


 

♦跳び箱で「イルカショー」!

 ボクは5段くらいの跳び箱を飛ぶ能力は、基本的に運動神経のあるなしと関係ないと思っています。しかし、前回紹介したようなマットを使った練習法でも、どうしても飛べない子は出てきます。ボクの力不足かもしれませんが、体育の時間には限りがあるので、「飛べるようになるまでとことん練習!」というわけにもいきません。そんな子をどうしたら助けてあげられるでしょうか。

 そこでボクが編み出したのが、通称「イルカショー」。跳び箱の最終日を授業参観日にぶつけ、保護者たちに見てもらおうというものです。

 ショーというからには、見て美しく楽しいものでなければなりません。親たちが本気で感心してくれれば、藤の実フェスタのように、子どもたちの大きな自信につながります。

 では、跳び箱を「美しく見せる」にはどうしたら?

 そこでヒントになったのが、水族館などでよくやっている「イルカショー」。何頭もの訓練されたイルカが、一斉に水面から飛び出し、くるっと回転するやつです。あのショーのポイントは、イルカが跳躍する高さがみんな違うことです。それでも美しく見えるのは、タイミングがばっちり揃っているからです。

 これを跳び箱に応用できないかと、ボクは考えたわけです。

 

♣飛ぶ段数が違ってもシンクロ演技

 ボクのクラスにはチーム(生活班)があり、5、6人ずつ6チームに分かれています。このチームの中で「自分が担当する段数」を割り振ります。今回は、4段、5段、6段、7段、8段2つから一つ選ばせました。8段飛べる子が3人いたとしても、枠は2つなので、3人同時に8段は飛べません。誰か1人は7段を飛ぶことになります。演技は何度も繰り返すので、3人の中でローテーションは自由です。

 割り振りができたら、一斉にスタートして、タイミングを合わせて台上前転する練習をします。つまり、8段飛べる子と4段しか飛べない子がシンクロ演技するわけです。各チームの評価ポイントは高さでなく、「前転から着地まで全員揃っているかどうか」です。

 

跳び箱の前に、体育館を10周してウォーミングアップ

♥授業参観日で「公演」開始!

 昨年12月7日の保護者授業参観日、前章「クリティカルディスカッション」で紹介した国語の後に、この体育の授業がありました。

 まず、体育館の内側いっぱいを10周ランニングした後(子どもたちはこれを毎回自主的に行っています)、跳び箱を6つ組み立てます。高さは奥から4、5、7、8、8、6段。真ん中を高くしたのは、その方がキレイに見えるからです。保護者たちは壁際でカメラを構えて待っています。

 「イルカショー」が始まりました。本当はシルク・ドゥ・ソレイユの曲を流したかったんですが、今回はちょっと間に合いませんでした。一斉に走ってきた子どもたちが、高さの違う跳び箱の上で同時に前転し、最後に両手を挙げて着地ポーズを取ります。そのたびに保護者から「おおー!」と拍手が起こります。「ポーズが決まった時は、手が痛くなるほど拍手してください!」とボクがあらかじめお願いしているからです。

 実際、何てことはない台上前転も、5~6人が一斉にクルリンすると、見ていて意外に楽しいのです。跳び箱の高さの違いも、むしろ視覚的に面白いものになっています。

 

ショーを見守る保護者たち。大きな拍手が起こります

♠これもアナザーゴールの応用です

 ボクが初めてこの「ショー」を考案したのは、2009年に2回目の3年生を担任した時でした。その時は本当に、シルク・ドゥ・ソレイユが当時やっていたツアー「コルテオ」の曲を流したんですよ。たまたまケガで休んでいた子を指揮者に仕立てたりしました。

 もうお分かりでしょう。「跳び箱イルカショー」は、あの運動会リレー(第38~41回>>ペンギンバトン)と原理的につながっています。かけっこも跳び箱も個人技なので、子どもたちの力を全員同じレベルに上げて揃えるのはなかなか難しい。そこに「チーム戦」という要素を加えることで、達成するべき目標が自然に変化するのです。これもボク流「アナザーゴール」と言ってもいいかもしれません。

 チーム演技にすると、何段飛ぶかは「役割」になりますから、子ども同士の間で「高さコンプレックス」がなくなります。つまり、8段=運動できる子、4段=運動苦手な子、という考え方がなくなる。「自分の力をチームのために発揮してね」とボクはいつも言います。だから、4段や5段を飛ぶ子も自信満々で演技する。8段を軽々と成功する子よりも、4段を一生懸命練習して、頑張ってクリアする子がチームを盛り上げたりするわけです。それによってクラスの一体感も強化されます。

 このイルカショーを、保護者の前でやることにも意味があります。チーム内で同時に飛ぶ「コース枠」を設定しているので、本当は6段飛べる子が「仕方なく」5段を飛ぶこともあります。「本当は6段飛べるんだけど、チームプレーだから!」と自分の親に胸を張ることができるのです。

 

ちょっとズレたけど、跳び箱って楽しい!

飛ぶ楽しさを知った子どもたち

 ボクが最初に宣言した「全員5段で台上前転させる!」という目標は、完全には果たされなかったかもしれません。でも、2学期末の先生へのメッセージ作文では、運動が苦手な子ほど、跳び箱の練習を頑張ったことを誇らしげに書いていました。「8段飛べると思ってなかった!」と喜ぶ子が一番多かったのですが、「練習重ねて5段成功した!」だって、その子にとっては大きな勲章に違いありません。自分なりの目標を立てて、チームでシンクロして飛んで、保護者の喝采を浴びたイルカたちは、それぞれに跳び箱の楽しさを知ることができたのです。


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(2017年1月30日 10:00)
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