沼田 晶弘
■ボク史上、最も苦い勝利
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
この言葉、プロ野球の野村克也監督が使っていて、いい言葉だなと思って調べてみたら、元々は江戸時代の肥前平戸藩主で、剣の達人でもあった松浦静山の名言だそうです。勝ったのは運が味方したからかもしれないけれど、負けたのは実力不足だから。とても含蓄のある言葉ですよね。
これから書こうとしているのは、まさにそんな話。今年5月の運動会で、ボクがタンニンする4年3組が、クラス対抗リレーで味わった「苦い勝利」の物語です。
■昨年の運動会をおさらいします
その前に「これまでのあらすじ」を少し。このコラムの第38~41回「ペンギンバトン」、あるいは出たばかりの『「変」なクラスが世界を変える!』(中央公論新社)の第3章「勝ってこそ運動会」で詳しく書いていますが、昨年5月の運動会で、タンニンしたばかりの3年3組の子どもたちは、カントクのボクを最後までハラハラさせながらも、自分たちの力で優勝をもぎ取りました。その時の彼らの喜びようは、ボクもジンとしてしまうくらいでした。
世田谷小名物の学年別クラス対抗リレーは全員参加がルールで、1つのクラスで4つのチームを作り、2チームずつ2つのレースを走ります。世田谷小は各学年とも3クラスなので、1つのレースに計6つのチームが出場します。各チームの着順がそのままポイントとなり、ABCD4チームの着順合計がそのクラスの総合ポイントとなります。このポイントが一番少ないチームが優勝です。このルールはのちのち重要になりますので、ちょっと覚えておいてください。
■今年は当然、2連覇を狙う!
さて、初めての「自分で頑張っての勝利体験」を味わった3年3組は、昨年の運動会の後、早くも1年後の目標を立てました。次の運動会で狙うのは当然「2連覇」。しかもただの連覇じゃない、2レースとも1位2位を独占しての「パーフェクト優勝」が子どもたちの新たな目標になったのです。彼らの前にボクがタンニンした〈5代目・世界一のクラス〉6年1組は、5年6年と連続パーフェクト優勝を成し遂げています。〈6代目〉を名乗る彼らは、「今度はオレたちの番だ!」と対抗意識を燃やし始めたのです。それは、ボクにとってもくすぐったく、頼もしいことでした。
彼らはさっそく、昨年9月から走り込みを開始しました。3年生の運動会は「よくわかんないけどマジメに練習しなきゃ」だった彼らが、今度は「連続優勝」というハッキリした目標をつかんだ。目的意識があれば、自然と練習にも熱が入るものです。ボクは彼らを激励しつつ、背中を押してあげるだけでした。
■ここで手綱を締め直さなければ
そして新学期、ボクは3年3組の持ち上がりで4年3組のタンニンになりました。子どもたちも喜んでくれて、彼らのスイッチも、その瞬間に本格的に入ったみたいです。運動会に向けての最初のレースである、リレーと同じコース、同じ距離を走る障害なしのフラットレースで優勝しました。昨年度は3クラス中ビリだったんだから、大変な進歩です。まずは最初の目標を突破したわけです。
でも、ここで手綱を緩めてはいけないとボクは思いました。走力があっても図に乗ることのコワさは、2014年度の5年1組の時に味わっていたからです。ここでもう一度引き締め直す必要がある。ボクは言いました。
「運動会でプロジェクトを立てるぞ! プロジェクト名は『3SW』だ!」
76<< | 記事一覧 | >>78 |