沼田 晶弘
■運動会にも「魔物」はいた
ボクはレース直前でガチガチになった子どもたちから、プレッシャーを取り除くことをせず、あえてそのままで放っておきました。
その時のボクの気持ちを、きちんと説明するのは難しいのですが、心の中でこう思ったことは確かです。
「このくらいのプレッシャー、これから人生でいくらでもあるぞ。コレを乗り越えていけ!」
つまるところ、ボクは、子どもたちが昨年から積み重ねた練習と努力、そしてチームワークに絶対的信頼を置いていたのです。プレッシャーがあっても、この子たちの優勝が揺らぐことはないだろう。しかし、究極の目標であるパーフェクト優勝は、達成できるかどうかわからない。ボクは「頑張ったからって、みんな必ず勝てるわけじゃない。でも、勝つ人は、みんな必ず頑張ってるんだ」と、いつも子どもたちに言っています。この緊張を乗り越えて、プレッシャーの中で完全優勝できたら、さらに大きな「勝利体験」になると、ボクは思ったのです。
しかし、オリンピックならぬ、運動会にひそむ魔物も、なかなかあなどれないことを、ボクたちは思い知ることになります。
■ネットくぐり障害の誤算
レースでの誤算のひとつは、リレー障害の「ネットくぐり」でした。コースの両脇に平均台を置いて、その上からコースを横断するようにネットをかぶせ、用具係の子どもたちが平均台に座ってネットを押さえています。このネットが練習や予行演習の時よりもきつく張られていた。ネットくぐりの際、ベッタリ這わずに、網をたぐりながら中腰で一気に走り抜けるのは、練習を重ねて子どもたちがつかんだコツです。本番で、この戦法がうまくいかなかったのです。
でもそれだけなら、どのチームも条件は同じだから、焦る必要はなかったのです。しかし、「練習どおりにいかない」ということが、ただでさえプレッシャーを感じている子どもたちを、さらに浮き足立たせることになりました。
もはやおなじみと思いますが、ボクたちのリレー戦法は、足の遅い子から順番に並べるオーダーなので、最後発から追い込む型のチームです。しかし、ネットでてこずったこともあり、思うように差が縮まらない。縮まらないからさらに焦る。
■「みんなのために抜く!」
それでも、第1レースで、4年3組のABチームのうち、Bチームは先頭を走っていました。しかしAチームは、アンカーがバトンを受け取った時点で3位。このアンカーの男の子は物静かな子なんですが、ボクは彼の地道な努力を高く買っていたので、あえて今回アンカーに抜擢したのでした。
これまでのレースを通じて、彼が3位でバトンを受け取ったのは初めて。練習ではいつも先頭で受け取っていたからです。だから彼は懸命にダッシュした。「みんなのために抜く!」という責任感です。それが裏目に出ました。跳び箱の障害で転倒し、さらに最後のコーナーで、他チームの選手と接触して2度目の転倒......。
それでも彼はすぐに立ち上がり、歯を食いしばってゴールしました。最下位の6位でした。
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