沼田 晶弘
■なぜ三角定規は2種類なの?
4年生になると、三角定規を使います。
「三角定規ってそもそも何だろうね?」と、ボクはまたまた教科書にはない問いを子どもたちに投げかけます。
子どもたちはすぐに国語辞典を引いて、「『三角形をした定規』って書いてある!」と答えます。
「ふーん、三角形をしていれば何でもOKなんだよね?」とボクは突っ込みます。「だったら、なんで普通売ってるのは2種類しかないのさ? もっとたくさん種類があっていいんじゃないの?」
文房具店などで売っている三角定規は、45度、45度、90度のものと、30度、60度、90度のものが2枚セットになっています。これ以外の組み合わせもきっとあるんだろうけど、通常の売り場でこのセットしか見ないのはなぜ? というのが、ボクの次の素朴なギモンでした。直角の時と同じく、まずは子どもたちに答えを予想してもらいました。
「たくさん種類があると大量生産できないから!」
なるほど、文房具メーカーの都合。確かに2種類に絞ったほうが一度に作りやすいね。
「内角の和は必ず180度なので、直角を一つ入れるとこの二つくらいしか思いつかないから!」
三角形の内角和が180度になることは、その前にさらっと教えておきました。しかし、20°、70°、90°の定規だって作ろうと思えば作れるよね。
「この形だと正三角形や正方形が作りやすい!」
それは確かにそう。正三角形と正方形を2つに割った形ですからね。
「二等辺三角形が好きで入れたかった!」
好き嫌いを持ち出すと何でも成立しちゃうよ?(笑)
■子どもの好奇心スイッチON!
これについても、次の授業までに調べてもらいましたが、直角=90度より難問だったようです。「三角定規がこの2枚であることに、特に根拠はない」という結論になりました。それはそれで意義ある「Discover」です。
しかし、こんなことを言った子どもがいました。ちょっとドヤ顔で。
「この2枚だと、15度刻みですべての角度が出せるから便利、ってネットに書いてあった」
「ほお〜」と、ボクは言いました。「ネットに書いてあったけど、キミは実際に検証してないわけだよね?」
むむっ、と子どもたちの視線が一斉にボクに集まります。
「ならば、今からみんなでやってみろ!」
この瞬間、子どもたちの知的好奇心のスイッチが「カチッ」と入ったのがボクにはわかりました。
■「15度刻み説」を検証する
子どもたちは2枚の三角定規をカチャカチャと組み合わせ、一所懸命に15度刻みの角度を出していきます。
45度引く30度で15度。30度、45度、60度は最初から定規にあります。30度+45度で75度。90度はある、45度+60度で105度。90度+30度で120度......と、子どもたちは順調にチェックしていきます。
ところが、150度で一度ストップしてしまいました。165度以上がなかなか出せないのです。
クラス全員で検証作業をやっていましたが、ここから班ごとのチームで競わせることにしました。「360度までできたチームは、個別にボクに報告に来るように」と言い、20分ほど放っておきました。
165度以上を出すためには、足し算だけではダメで、2直角=180度、3直角=270度、4直角=360度から引くという別の発想が必要になります。ボクはこのことをあえて教えなかったのですが、かなりのチームが360度までクリアしてきました。
■教科書に書いてない「学び」
「キミたちは一度、2枚の三角定規に『根拠なし』という結論を出したよね」とボクは言います。「でも、その後『15度刻みで全部出せるかもしれない』と予想を立てて、それを自分たちの力で立証した。つまり、キミたち自身が根拠になったわけだね」
ここまで、算数としては3時限を使っています。教科書には「1回転した角を360等分した1つ分の角の大きさが1度」「1直角=90度」とは書いていますが、その理由については触れていません。三角定規を組み合わせていくつか角を作る方法は書いていますが、なぜ三角定規がこの2種類なのかは書いていません。
教科書通りにやっただけだったら、子どもたちはここまで熱心に円の角度や三角定規に取り組んだでしょうか。
ボクは子どもたちに、「何で直角は90度なの?」「何で三角定規はこうなの?」というボク自身の疑問を投げかけただけです。それを受け止めた子どもたちは、自分で楽しみながら、円や三角形の性質を勝手に学んでしまったのです。
セルフラーニング。ボクのクラスではSLと呼んでいますが、ボクは最近、SLこそ理想の学びの形ではないかと考えています。問題は、子どもたちをどのようにうまく、そこに導くか。次回以後、そのあたりをもう少し深く考えてみたいと思います。
「なぜ三角定規は2種類か」について考えた時の黒板です |
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