教育ルネサンス[1] 低待遇で正規と同じ仕事
2017年9月27日 読売新聞朝刊 掲載
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公立の小中学校では、非正規で働く教員の割合が1割近くまで増えている。給料などの処遇は正規採用の教員に比べて低く、改善に向けて動き始めた教育委員会もある。特に「臨時的教員」などと呼ばれる常勤講師はクラス担任や部活動の顧問を務めることも多く、果たす役割は大きい。教員の「働き方改革」が求められる中、非正規教員をめぐる現状や課題を伝える。
■翌年の保証なし
奈良県内の公立中学校。常勤講師を務める非正規の50歳代の男性は、退勤が遅いときは夜10時を回る。
クラス担任も、運動部の顧問も務めている。
毎朝7時から朝練を見守り、放課後は部活動のほか、成績処理などの作業に追われる。土日曜は部活の練習や試合。半年以上休みがなかったこともある。同僚の正規教員の一人は「自分たちと何ら変わりはない」と話す。
それでも、常勤講師の任用(契約)期間は1年ごとで、翌年度も働ける保証はない。さらに、男性の月給は手取りで30万円に届かず、年収は同年代の正規教員の半分程度だという。
同じ非正規でも、ほかの公務員や民間企業の社員で、正規と仕事の内容が明確に区別されたケースに比べて処遇は厳しい。
毎週発行する手書きの学級通信、生徒一人ひとりとの交換ノート。「いい方向に生徒を変えたいとやってきた。これは自分が選んだ道だから」と男性は話す。
大学卒業後、常勤講師を務めながら、何度も教員採用試験を受けた。しかし、合格できず、正規教員にはなれなかった。
生徒数の増加に伴う教員の大量採用が一段落した後の1990~2000年代。志望した教科の採用は、奈良県で年数人の「狭き門」だった。
この中学校では、常勤講師が教員全体の2割近くを占める。奈良県全体の公立小中学校でも16年度、常勤講師と、特定教科の授業を担当する非常勤講師を合わせた非正規教員は教員定数の約13%で、全国平均より約5ポイント高い。
ベテラン教員の大量退職時代を迎えているが、県教委の担当者は「少子化で将来、必要な教員数は減っていく。正規教員が過剰にならないように、一定の非正規教員は必要だ」と説明する。
全国公立小中学校の年齢別教員数(※文科省資料より作成。2017年3月末時点) |
■線引きなし
小中学校の非正規教員の割合が16年度に約12%だった福岡県。
「正規、非正規で仕事に線引きをしていたら学校は回らない」。公立小学校で常勤講師を務める40歳代の男性は強調した。
この小学校では教員約60人のうち、常勤講師は約10人。男性を含め、大半がクラス担任を務める。生活指導などの会議が多く、放課後に翌日の授業準備が終わらず、夕食をとって深夜まで作業を続けることもある。
福岡県では、家族の介護などの理由で早期退職者数が想定を超え、非正規教員を補充して必要な教員数をかろうじて確保している状態だ。
この男性は、同年代の正規教員と比べ月8万円ほど低い給料から、住宅ローンや子供の教育費を支払う。将来の不安を払拭(ふっしょく)しようと、毎年、教員採用試験を受けているが、「多忙な日々で、受験の準備に充てる時間はほとんどない」と、苦しい胸の内を明かす。
水町勇一郎・東大教授(労働法)は「非正規教員は低い待遇で、雇用が打ち切られるかもしれない不安を抱えながら子供たちと接している。仕事の実態に合わせ、正規、非正規の待遇格差を埋めるべきだ」と指摘する。
●常勤講師 任用期間は事実上1年
学校には、教員採用試験に合格して採用された正規教員のほか、非正規で働く常勤講師や非常勤講師がいる。教員免許を持っていれば、教員採用試験に合格する必要はない。
常勤講師は、地方公務員法の規定で任用期間は事実上1年以内。続けて勤める場合、教委は年度末などにいったん解雇し、数日間おいて雇用し直すケースが多い。仕事の内容や勤務時間は、正規教員とほとんど変わらないといわれる。
非常勤講師は、音楽や美術など担当教科の授業時数に応じ、主に時間給で給料が支払われる。
文部科学省によると、全国の公立小中学校の教員数は昨年度で約59万人。このうち、常勤講師は約4万1000人(出産育児休業の代替教員除く)、非常勤講師は約7000人(週40時間勤務で1人と計算)で、非正規教員は全体の約8%にあたる。常勤講師だけで10%超の県もあり、文科省は教育委員会に、処遇が安定した正規教員の割合を増やすよう働きかけている。
全国公立小中学校の教員数(2016年度)※常勤講師は出産育児休業の代替教員除く。非常勤講師は勤務時間を合計し、 週40時間の勤務で1人と換算 |
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