教育ルネサンス[2] 10年ずっと基本給22万
2017年9月28日 読売新聞朝刊 掲載
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「正直、将来が不安です」
岩手県内の公立中学校で常勤講師(臨時的教員)として働く非正規の20歳代の女性は声を落とした。
常勤講師5年目でクラス担任を務める。給料は月約22万円。同世代の正規教員に比べ、1割ほど低い。
岩手県では、常勤講師の経験年数が12年になると、基本給は月約25万8000円で「頭打ち」になり、それ以上伸びない。最高41万円近くまで昇給する正規教員との差は開く一方だ。女性は教員採用試験を受け、正規教員を目指しているが、「将来の設計を立てられない」と打ち明ける。
福岡県では30歳代後半、鹿児島県では4年勤務で「頭打ち」を迎える。
鹿児島県内の公立小学校に勤める常勤講師の40歳代の女性はこの10年、基本給が約22万円で変わらない。「クラス担任をこなし、授業のスキルも着実に上がっているのに」と割り切れない様子だ。鹿児島県教委の担当者は「見直しは現時点では未定」と話す。
読売新聞の調査では、38都県が、地方公務員法に基づく給料表通りに金額が上がることがないよう、別のルールを設けて給料を低く抑えていた。多くは「慣例」として続けられ、非正規教員の長期勤務を想定した処遇の仕組みが整っていないことが背景にあるようだ。
処遇の格差は給料だけではない。新たに採用された正規教員は教育公務員特例法に基づき、初任者研修を受ける。校内で年300時間程度、校外で年25日が目安で、指導役の教員がつき、授業の板書や発問の仕方から公務員倫理まで学ぶ。
しかし、非正規教員は対象外だ。中央教育審議会は、非正規教員の資質向上について「研修などによる中長期的な取り組みが不十分」と指摘しており、独自に改善を進める教委も出ている。
神戸市教委は、市立学校で1~3年目の常勤講師を対象に研修会を開いている。今年度は4~6月に計5回、希望者延べ約1600人が授業の組み立て方や特別支援教育などの講義を受けた。「常勤講師も正規教員も子供たちの前に立つ先生。力量をあげ、よりよい授業につなげたい」と市教委の研修担当者は語る。
宮崎市教委も今年度、小中学校で常勤講師1年目の約50人を対象に研修を始めた。5月と10月の2回、進学塾が開発したインターネット教材で授業作りの要点をまとめた動画を視聴。模擬授業もする。
東京学芸大の金子真理子教授(教育社会学)は「非正規教員の低い処遇や不安定な立場を放置すれば、若い世代が教職を目指さなくなる要因になりかねない」と警鐘を鳴らす。教員の働き方改革が求められる中、その処遇改善に注目が集まる。
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