【海プラ問題】僕が研究を思いついた訳
楜澤 哲
駒場東邦高校3年
カンカン──。
木槌の音が響き、議場の全ての国の合意を得た決議案が無事採択された。議場にホッとした空気が流れる中、私の中にはモヤモヤとしたものが残っていた。ふと我に返ると、その正体を探るために決議案の文章の羅列に目を落とす自分がいた。
国際連合で加盟国同士が交渉する過程を生徒や学生が体験する「模擬国連」。私に割り当てられた役割はニュージーランド大使で、今回の議題は「プラスチック問題」だった。鼻にストローの詰まったウミガメの写真を発端に、注目を一気に集めた問題である。
決議案にはSGDsを想起する前文などが並び、その後、「途上国への先進国からのキャパビル(キャパシティービルディング=経済発展のために組織的能力を構築すること)を行うこと」「海洋プラ問題を解決するための技術を開発すること」などといった文言が続く。
内容に不足はない。が、読んでいくうちに、だんだんと疑問が湧いてきた。
一体、キャパビルとは具体的に何を行えば良いのか?
1時間前までニュージーランド大使役としてインドネシア大使役の生徒と熱く議論をした末にたどり着いた解決策とは結局何なのか。「プラスチックの代わりとなる、もしくは環境への影響がプラスチックよりも少ない素材の開発」というのは簡単だが、実際にはどうしろというのだ。
果たして、この決議案を作るだけで、その先の具体的な「何」を分からずして終わりにして良いのか。海洋プラ問題に対して貢献できているのか。そう反芻してたどり着いた私の答えは「できていない」であった。
そして、これが私が感じていた、もやもやの正体であった。
増水時に上流(後方)から流れてきたレジ袋などが草にからみついていた。こうしたプラごみが海に流れ込んでいく(東京都江戸川区平井の荒川河川敷で=秋山哲也撮影) |
数か月後、私は東京大学生産技術研究所の吉江研究室にいた。東大で行われている高大接続のプログラムに参加し、プラスチックの研究をしようと思ったのだ。
理由は単純である。
モヤモヤ解消。模擬国連の議場で話し合った"新たな技術の研究"とはなんなのか、自分自身で、確かめようと思ったからだ。
研究室の先生と話し合った結果、私の研究テーマは「真珠模倣のポリマーの生分解性」に定まった。簡単に言えば「真珠の表面の形状を模したプラスチック作成を通じて、通常の生分解性プラスチックよりも強いプラスチックに生分解性はあるのかどうか」を実証する研究だった。
しかし、この「研究」という新たな分野に足を踏み入れた私はまたモヤモヤを抱え込んだ。
数か月前、研究をすることを決意したときには、研究をして成果をあげることによって私は海洋プラ問題に具体的に貢献するのだと思っていた。
だが、研究提案書を書いていく中で、研究だけではどうしようもできない問題があることにも気づいた。
それが、研究成果を十分に社会に還元することであった。一方で、模擬国連のような場は逆に社会への還元を得意とする。これは研究という視点に立って見て初めて気づいたことだった。
研究と社会――この二つの視点を持つということは環境問題、また全ての社会問題を見る際に不可欠であるということだ。どちらか一方が欠けても、これらの問題は解決することはない。
しかし周りを見渡すと、これを同時に実行できる場が少ない、というよりもほとんどないのではないか。
それならば作ってしまおう。そんな思いから、高校生7人で今年3月から作り上げてきたのがこのプログラムである。
「高校生でも」できることをしよう、いやいや私たち「高校生だから」こそできることがあるのではないか。
高校生の柔軟な頭で固定概念を取り払いさまざまな思考方法を組み合わせる。多角的な視点から問題を見ることで自分たちが生きる世界を考える。それなら何か面白いことが起こりそうだ。
今回のプログラムでの研究の成果はもちろんだが、それ以上に、こうした複数の視点から解決策を創造するという経験が今後、私たち高校生が社会の担い手なった時、大いに役立つのではないか。問題意識がともに交差する他の高校生とこうした「場」を作り上げていけることがとても楽しみである。
海洋プラ問題を解決するのは君だ!~高校生×研究×社会問題解決プログラム
【募集人数】高校生と高専生100人
【活動方法】オンライン会議システムなどを使い実施
【活動期間】8月30日~2021年2月(約6か月)
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