2030 SDGsチャレンジ

じぶんごとからはじめよう®

SDGsトーク3(下)学校を巻き込む手立てを

東京都江東区若洲でプラスチックの分別処理過程を取材後、中央防波堤内埋立地に足を運んだ小川祐二朗記者(左)と田中孝宏さん。撮影は秋山哲也

 SDGsをテーマに取材を続けてきた読売新聞教育ネットワーク事務局の小川祐二記者と、教育ネットワーク・アドバイザーの田中孝宏さんが議論を繰り広げた今回の「SDGsリレートーク 『じぶんごと』からはじめるために」。海プラ番外編の最終回は、SDGsの実践をさらに広げるための「機運醸成」へと話は広がります。


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──今回のトークを通じて浮かび上がってきたのは、やはりSDGsの実践には「コミュニティーづくり」、地域間の連携が欠かせないということでしたね。

 

小川 前回も話題になったICT機器を使ったオンライン教育もそうですし、SDGsの学校での実践もそうです。やはり行政のトップが号令をかけると、それこそものすごい勢いで進むということはありますね。自治体の首長、あるいは教育長でもいいかもしれません。彼らが音頭をとると、一気に広がるのではないかと思います。

 

──そうですね。

 

小川 そして、トークを通じて私はやはり、SDGsについての学校教育を通じて、地域の大人同士のネットワークが広がり、「地域づくり」にも貢献するのだという思いを強くしました。学校でやるからといって「勉強だけじゃないんだ」ということです。自治体も教育現場も、もっとそこに目を向けていってほしいですね。

 

──地域作りの根本は、そういうことですよね。小中学校、高校というタテのつながりを作って、さらに、そこにもっと地域の企業、あるいは住民のグループや組織といった「民間」の力が加わることができる、そうした仕組みを作っていかないといけない。逆にそうしなければ、SDGsは広がらないだろうし、続くこともないでしょう。

 「地域づくり」という言葉、実は各地の教育長が好んで使う言葉でもあるんです。だから、もっとそこを強調して、そうした成果を前面に押し出すことができれば、「そうか、SDGsってやらなきゃいけないんだ」と自ら気づくと思います。

 

小川 とはいえ、「地域づくり」を掲げても地域の大人たちや民間企業を巻き込んでの取り組みは、高校生ぐらいなら可能だろうと思います。でも、それをどうやって小中学校での取り組みに落とし込むことができるのか。ちょっと難しいのではないかと感じるのですが......。

 

──いや、むしろ「地域づくり」だったら逆に、小中学校のほうがやりやすいですよ。地域という観点から言えば、中学を卒業すると子どもたちは地域から出てしまいます。正確にいうと、その地域に住んでいるかもしれないけど、高校に進学すると、通学だけでなく遊び場所も広まって行動が自由になってしまうので、自分の生活の基盤が地元から離れてしまうんですね。だから、高校生になるとどんどん自分の地域のことをかえって知らなくなってしまう。

 

小川 そうですね。高校生は地元には寄りつかないですものね。

 

──住んでいる地域のことは、むしろ小学生、中学生の方が知っているんですね。これは中学生の例ですが、東京都の杉並区、江戸川区などがやっている「中学生レスキュー」という防災活動があります。

 なぜ中学生なのかというと、地域を生活圏にしているのが中学生だからです。高校生にレスキューを頼んでいても、普段は地域にいない。だから、たとえば地域のどこに高齢者が住んでいるのかと聞かれてもわからない。そこは中学生が一番、頼りになる。地域のお祭りなどでも、担い手は中学生が重要な役割を果たしていると聞きますね。お祭りで「焼きそば」を用意してもらうとなると、高校生に頼みたくても彼らは結構忙しいんです。部活もあるし、遊びに出かけるのは都会だし、と。地域の子どもの中では、実は中学生が一番上なんですね。

 だから、中学生になるまでにもっと地域学習を徹底的に組み入れていかないと。SDGsを地域作りやネットワークづくりにつなげるということが難しくなってしまう。だからこそ、もっと地域の大人たちには、小中学生に関わってほしいんです。

 

小川 前回も話題になったタテの関係をもっと強く出すために、異なる年齢層を巻き込んで地域でイベントをやるとなると、高校生がいる方がいいですね。前回も話題に上りましたが、むしろこういうケースでは自治体が音頭を取れば、そういう仕組みを行政主導で作ってしまえば、できるのではないかと思います。

 

右後方は、現在の最終ゴミ処分場となっている中央防波堤外側埋め立て地

 

──ただ、その場合にSDGsを旗印にして動いてくれるのかどうか。子どもたちが、自らの「意識」で動くのか。そこがすごく難しいのでしょうね。

 でも、その仕組みをまずは行政が作り上げてしまい、そこで「学ぶ」という過程で子どもたちの間で醸成された「意欲」のようなものを、大人たち、その周囲がそっと押してあげるということができるなら理想ですね。それこそが、地域を巻きこんだSDGsの取り組みの具体的な構図だといえるかもしれません。

 でも、難しいのは、どちらかが中途半端だと、うまく回りません。子どもたちの「やる気」が不十分でもダメだろうし、大人たちの後押しが足りなくてもうまくいかない。子どもたちと地域とのいい循環が整った状態ではじめて、SDGsの取り組みとしてうまく機能するのかもしれませんね。

 

小川 そこです。やはり、地域で一番集まりやすい場所は「学校」なんです。あるいは、自治体の拠点でもある「役所」でもいい。そこからコミュニティーを形成すればいいのではないでしょうか。とにかく、うまく学校を使わない手はない。それに加えて、SDGsはその前身の「ミレニアム開発目標」(2000年〜15年)と違って、重要な行動主体の一つとして企業が位置づけられています。

 しかも、CSR(社会貢献活動)ではなく、会社の本業を通じて社会課題を解決することを求めている点が新しい。本業がもうからなければ、課題解決も持続可能ではなくなるわけですから。加えて、SDGsに取り組まない企業には資金が集まらないという雰囲気も醸成されつつありますね。そこで、企業活動が主体となって社会問題の解決を図ろうという機運につながる。特に欧米諸国ではこれが顕著になっています。だからこそ、「この小学校はSDGsを実践しています」という旗印を掲げることができれば、その魅力に引きつけられる企業も出てくると思うんですよね。それが、私が考える「いい循環」です。

 

──なるほど。先進的だといわれる企業ほどSDGsを第一目標に掲げる傾向は強まっていますね。ただ、私は何か特定の「旗印」のようなものよりも、すべての学校がしっかりした旗をもってほしいと思います。そして、教育が後押しをする形で、各自治体、首長たちもSDGsにまつわる「旗」を掲げてほしいですね。

 そういう意味で、小川さんのいう「いい循環」につなげるきっかけとして、小川さんが関わる今回の海洋プラスチックをテーマにした高校生たちの研究プログラムには期待しています。子どもたち自身が、自らの力で芽を出す。「やる気」という芽をあちこちで出す、そんな取り組みにしてほしいですね。

 

小川 高校生たちからどんな斬新なアイデアが出てくるのか。希望の「芽」を持つ高校生たちの挑戦を、私も大人のひとりとして、じっくりと見守っていきたいと思っています。

 

──今回の取り組みの成功を心から祈っています。今回はありがとうございました。

 

小川 ぜひ期待していてください。そして高校生の皆さん、どしどし応募してきてください。

 

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(2020年8月12日 09:30)
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