SDGsトーク2(下)社会を変えるのは「子どもたち」

本川先生(左)と語る田中孝宏・読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー(東京都千代田区で)

 SDGs(持続可能な開発目標)を達成するために、教育でできる方策を探る「SDGsリレートーク 『じぶんごと』からはじめるために」。正則学園高校(東京都千代田区)の本川太郎先生と、今年3月まで現役の小学校長だった田中孝宏・教育ネットワーク・アドバイザーとの熱いトークの最終回では、教育の「持続可能性」について大いに語ります。

 

聞き手:田中孝宏(教育ネットワーク・アドバイザー)

まとめ:吉池亮(教育ネットワーク事務局長)


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──実際にSDGsの取り組みを経験した子どもたちにはどんな変化がありましたか。

 

本川 SDGsのプログラムを始めた最初の頃は、「こんなことができたらいいよね」程度の感じだったのが、次第に生徒たちも「先生、これ調べましょうよ」と主体的に関わるようになっていきました。物おじせず、専門家にも話が聞けるようになり、自分たちのしたいこと、主張したいということをまとめられるようになりましたね。小学生だと、どうなんでしょうか。

 

──小学生は高校生とはだいぶ違うかもしれないですが、むしろ物おじしないのは小学生の方かもしれません。SDGsの取り組みをやっていると、小学生も、自分で考えて質問を用意するようになり、実行できるようになりますね。こういうことはいわゆる教科教育ではなかったことで、要するに人ごと、他人事として聞いていたものが、「自分事」に変わっていくのだと思います。

 そういえば私も校長時代にこんなこともありました。ペットの問題を調べている子たちが、殺処分されている犬、猫たちを助けたいと思い立ち、校長室のドアをガラッと開けて入ってきて、こう言うんです。子どもたちが近くの駅で啓発のためにチラシを配りたいと。総合的な学習の時間でそういうことを学んでいたら、子どもたちにとって、いつしかそれが「自分事」になってしまったんですね。ただ、こういうのは小学校ではなかなか難しくて、いいことだとしてやっても、「背後に大人がいるのではないか」「子どもはやらされているだけではないか」と言われることもあるでしょう。なので、そのときは子どもたちのそうした思いだけは受け止めたということでとどめましたが──。でも、今後の教育はそういうところも目指さないといけないでしょう。高校生の方が年齢的にもだいぶ上だから、社会にもっと近いところにいるというイメージですね。

 

本川 おっしゃる通りですね。高校の位置づけも変わっていくべきでしょう。単に勉強だけ。単に学校で偏差値を上げて進学させるだけ----そういうことではダメですね。社会に出て、社会で活躍するためには、子どもたちは、社会が次から次へと変化するということをもっと知っていなければならない。でも、教科書の内容は1年、2年で変わることはない。そういうことを教えてくれる教科書はないんです。だとすると、この不確実なことだらけの社会に出るにあたって、子どもたちに何を提供してあげられるのか。それを考えたときに、SDGsは教材としてとてもいいなと思ったんです。

 

──そうですね。ひとまず「発火点」のようなものにはなる。そのためにもSDGsを使うことは非常に教育の中で重要になってきますね。

 

 

本川 SDGsの取り組みをやった子が、卒業旅行で米ニューヨークに行ってきたというので写真をみせてもらったんです。そうしたら、国連本部のビルが写っていて、観光で行ったのだろなと思っていたのですが、SDGsの取り組みを実践しているうちに、それを提唱している国連そのものを見に行きたいという欲求につながったんです。楽しさよりも知的な探求につなげたという子どもがいたという点だけでも、成果があったと言いたいですね。

 

──教科書を使って知識を入れていけばいいというだけではないんです。知識を入れていくと、次第に「やってみたい」という実践につながることが必ず出てくるはず。そういうことを子どもたちには続けていってほしいなと思いますね。

 

本川 とにかくSDGsを教育に取り入れてみて本当によかったです。いい手応えがありました。そしていま、本校では要所要所でいろいろな取り組みとして広がっている。学校内の活動、みなでやっていくという意識につながっていると思います。また、そうすることによって子どもたちが社会を変えていくきっかけにつながると思います。先生方と協力しながら学校から始めたことが、地域に広がり、それが国全体に広がって世界へとつながる----。そうなってこそサステナブル(持続可能)だといえるわけで、そういうのが理想的だと思いますね。

 

──同感です。私はSDGsこそ地域活動にはふさわしいと思うんです。小学生でいえば、世界のことはもとより宇宙とかそういう広いことは到底、考えることなんてできない。それは高校生でも同じかもしれないですね。持続可能なことはもっと小さなかところから手がけていかなければならないはずです。それが広がりをもって、地域から国、そして世界だという取り組みにつなげていければいい。地域の中でも、もっと企業の存在を生かして、企業も巻き込んだ取り組みにすれば、さらに持続可能なものになるでしょう。本川先生の取り組みも、先生が学校を去ったとしても、取り組みそのものは絶対に残る。それが教育におけるSDGsの持続性だと思います。きょうは先生のお話を聞いて、SDGsが非常に教育において優れたツールになるということを強く実感できました。

 

本川 私たちの取り組みもそうですが、発行にこぎ着けた「読売中高生SDGs新聞」は、本当に生徒たちにとってすばらしい成果物になりました。子どもたちが実際に記事を書き、写真を撮影すると聞いたときは、無理だろうと思っていたのですが、実際に完成したものを手にすると感無量です。

 

──本日はすばらしい話を聞くことができました。ありがとうございました。

 

本川 ありがとうございました。

 

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(2020年7月 3日 09:30)
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