楽しくNIE[19]道徳に新聞活用 理解深める 札幌市立伏見小(北海道)

新聞記事を読んだ後、被爆者の動画を真剣な表情で見つめる児童(2019年10月11日、札幌市立伏見小で)

 やあ、こんにちは。新聞活用学習・NIEのナビゲーター、ヤクだよ。きょうは、新聞記事を道徳の授業で活用している学校を訪ねたよ。文字と映像で、子どもたちの心に深く残る実践になったようだよ。


ヤクは、ユーラシア大陸の高地に生息する、ウシの仲間。NIEを通して、これからの社会を生き抜く上で"ヤク"立つ力が子どもたちにつくよう、ヤク先生が応援していきます。

 


 

 若手先生が道徳で新聞活用 

 今回訪れたのは、札幌市立伏見小学校(佐藤辰也校長)。「日本新三大夜景」で知られる藻岩山(札幌市)のふもとにある、今年で開校51年目の学校だよ。6年3組の教室は、今まさに道徳の授業が始まるところだった。「今日は先生より年下の人、高校3年生18歳の話です」。先生歴3年の若手・長谷川美雪先生が、拡大した新聞記事を黒板に貼って、記事の音読を始めていたよ。

新聞記事を配り、まず子どもたちに読んで聞かせ始めた長谷川先生

 

 新聞記事の「人」コーナーは道徳向き 

 今回取り上げられたのは、被爆者の声を集めた動画を短編にまとめ、動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿し始めた長崎の高校生、里道彩夏さんを紹介する記事だ。長谷川先生は先輩の朝倉一民先生から事前に、「話題の『人』を紹介した新聞記事は、道徳の授業で扱いやすいよ」とアドバイスを受けていた。「この記事は、子どもたちに近い年齢で、動画も登場するから、より扱いやすい」と長谷川先生。子どもたちは長谷川先生に促されて音読に合わせ、神妙な顔つきで、新聞記事の文字を追っている。

長崎の高校生について書かれた新聞記事を読む6年生

 

 新聞記事を読んでから動画視聴 

 記事を読み終えた後、長谷川先生は、「まず、里道さんは、どんなことに取り組んでいるか、整理してみましょう」と問いかけた。「ユーチューブに動画を投稿している」「若い人に気軽に見てもらいたいと、動画を編集してる」。子どもたちが次々と発言する。何人も発表した後、「じゃあ実際に動画を見てみましょう」と全員で動画を見始めた。

長谷川先生の発問に次々と手を挙げる子どもたち

 

 「赤ちゃんの首がなかった」に衝撃 

 投稿された短編動画のうち、この日、子どもたちが見たのは2本。原爆が落とされた直後の長崎の街の様子を、被爆者の女性が語っている動画では、「(目の前にいる)お母さんがおんぶしている赤ちゃんの首がなかった」と話した瞬間、教室中から悲鳴が上がった。「こわい」。「そもそも長崎原爆って何?」。いろいろな反応が飛び交う中、子どもたちは、いつにも増して真剣な表情で、被爆者が次々と語る映像に見入っている。

真剣な表情で被爆者の映像に見入る子どもたち

 

 被爆者の気持ちに近づく 

 動画2本を見終え、「なぜ里道さんはユーチューブに動画を投稿し始めたんだろう」と、長谷川先生は子どもたちに再び問いかけた。用意されたシートに子どもたちが意見を書き込んでいく。「動画にすれば、子供にも大人にも伝わると思ったから」「外国人にも伝わる」「被爆の苦しみや悲しみを知ってほしいから」。「もしかしたら親戚に被爆した人がいたのかも知れない」――。里道さんの心により近づいた子どもたちがどんどん考えを深め、長谷川先生は「(戦争の恐ろしさを)残すためには、少しずつ続けていくことが大事なんだね」とまとめた。

子どもたちの書いた感想シートを見て回る長谷川先生

 

 伝える方法、子どもたちなりに考える

 最後は、ユーチューブ以外で被爆者の声を広く伝える方法を考えた。「ポスター」「CM」のほか、「風船」「紙飛行機」など、子どもらしいアイデアも。45分の授業は、あっという間に終わった。男子児童の1人は「原爆のひどさを知ってショックだった。平和が大事だと思った」と真剣な表情で語り、戦争と平和というものについてこれまでになく、深く考えていたようだったよ。

子どもたちの意見を書き込んで最終的にまとめられた黒板

 

 若手先生も「楽しかった」 

 長谷川先生は、「今を伝える新聞記事と、子供に身近なユーチューブを合わせて授業をすることで、子供の真剣な様子が見られた。新聞記事を扱って頭の中が整理され、動画で脳に刻まれたよう。私にとっても楽しい授業だった。これからもこうした授業に挑戦したい」と感想を述べていたよ。

 

朝倉一民先生

 話題の人物を紹介するコーナーの記事は、その人が社会に貢献している様子が描かれていることも多く、正義や平和、国際理解などといった道徳的な価値観を考えさせる授業で扱いやすい素材になります。道徳の授業では、導入、展開、まとめの各部分でカギになる発問をどう考えるのかがとても大切。人物の生き様を伝える文章と動画を合わせた授業に、子どもたちが真剣な表情で取り組んでいたのが、とても印象的でした。新聞を活用した道徳の授業は、いま社会で起きているリアルな状況で道徳観を学べる面白い実践だと思っています。

 「戦争は、なぜいけないのか」。今、世界で起きている戦争と重ね合わせて考えるだとか、いろいろな人に命や家族があるって気づくようになるとか、新聞記事や映像をきっかけにした道徳の授業は、よりリアルに考えを深めるものになりそうだね。里道さんのつくった短編動画は、ユーチューブのチャンネル「高校生1万人署名活動実行委員会」で見られるよー。


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(2019年10月24日 16:20)
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