《第68回》文部科学大臣賞作品紹介(1)

 第68回全国小・中学校作文コンクールの中央最終審査会が行われ、各賞が決定しました。応募は3万966点(小学校低学年4917点、高学年7499点、中学校1万8550点)。文部科学大臣賞3点を要約して紹介します。(敬称略)


 

<小学校低学年>

「家族のかたち」

盛岡市立桜城小3年 山田結心(やまだ・ゆい)

 「お父さんもお母さんも居るのに、お母さんが、一人で家の事も子供の事もやってる事だよ」

 2年生の冬、「ワンオペ育児」という言葉がはやった時、お姉ちゃんにどういう意味か聞いた時に答えてくれた返事だ。お姉ちゃんは続けてこう言った。「うちのママみたいにね」

 私は6人家族で4人きょうだい。私は上から2番目だ。父は長距離トラックの運転手なので、一年のほとんどは5人ですごす。

 私は父があまり好きではない。全部が母任せで、何もしないからだ。私たちきょうだいの事以外にも、自分で病院の予約もしない。せんたくも自分でしないのに、あれが足りない、これが足りないと怒る。保育園や学校の行事にもこない。

 お姉ちゃんや妹や弟は父と会話をするけど私はほとんどしない。変な家族。家族って何だろう。

 父が一年中外で働いて、働いてきたお金で私たちが生活しているのは分かる。だけど、目の前にお金がただおいてあるから、あたたかいご飯が出てくるわけじゃない。よごれた服がきれいになって、かわいているわけじゃない。

 そのお金を持って、野菜や肉を買って、料理をするから、目の前にご飯がある。お金を持って、せんざいを買って、せんたくをしてほす人がいるから、毎日きれいな服が着られる。それを全てやっているのが母一人なのだ。

 時どき、父に言わないから、やってもらえないのでは、と言われるけど、言っても、ほぼ「無理」で終わってしまう。父の仕事の大変さは正直分からない。大きなトラックに乗っているのを見た事もないし父の会社に行ったこともない。

 いつも母が言ってくれているからか、父が少しだけ変わってきたような気もする。

 去年、私が何かで賞をもらった時の事だ。家に帰ると、母から紙ぶくろを渡された。中にはリボンがついた、はこが入っていた。「パパからだよ」

 そう言われて、手が止まった。「ゆいが、がんばって賞をもらったからだって。何がほしいのか(ママが)話したけど、買ったのは、パパだからね」

 中には、私がずっとほしい、と言っていた黒いうで時計が入っていた。父は、私に歩み寄ろうとしてくれているのかもしれない。少し、不器用なのかもしれない。家族だから、不器用でも、はずかしくてもいい。家族だから、弱い所も見せられるんだ。私は父にそう言いたい。

 家族の形とは、どんな形だろうか。今の私の中にある、私の家族の形は、六角形だ。小さくて、いびつな六角形だ。母には今、どんな家族の形が見えているのだろうか。

 未来に見える、家族の形。それは、きれいな丸なのだろうか。それとも、角がいくつもある、いびつな形なのだろうか。私にはいつそれが分かるだろう。(指導・八木橋智子教諭)

 

 

◆家族のあり方 鮮やかに

【講評 山田さんの家族は両親と姉、妹、弟の6人家族です。2年生の冬、「ワンオペ育児」という言葉を知り、その意味をお姉さんに尋ねます。それはまさに我が家のことだと知り、「私は父があまり好きではない」と、父への不満を述べます。その理由となる様々な出来事が鮮やかに目に浮かぶように描かれています。(新藤久典)

(2018年11月30日 11:08)
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