2.スマホなしの会話
東洋大学1年 大屋敷梨南(りな)
私は大学で手話サークルに入った。健聴者やろう者が手話でコミュニケーションをとる活動をしている。
そのサークルの夏合宿で、ろう者の友人ができた。彼女と宿泊する部屋が偶然同じになったのだ。
1年生の私は、まだ自己紹介程度の手話しかできず、彼女と話すときはスマホを使った。
私がスマホの画面に伝えたいことを書くと、彼女は簡単な手話か声で返事をする。でも、二人が見るのはスマホに並んだ文字ばかり。一緒に話しているようで、そうではなかった。
自分をもどかしく思うと同時に、「目と目を合わせて話したい。楽しく話せるようになりたい」と強く思った。
合宿中は先輩に「指文字」という50音や数字に対応した手話と、多くの単語を教えてもらった。最初は苦労したが、「紅茶」「甘い」「おいしい」など複数の単語を組み合わせ、「紅茶が甘くておいしいね」などの文章にして表現するとすんなり頭に入った。
2泊3日の合宿を終えるころには、ゆっくりではあるが彼女と簡単な会話ができるようになった。
彼女は私に「カフェめぐりが趣味なんだ」と言った。私は「いいね、今度一緒にカフェに行かない?」と手話で伝えると、「行きたい!行こう!」との言葉が返ってきた。
私の慣れない手話が彼女に伝わったとわかったときは、うれしかった。今ではスマホをほとんど使わず、彼女との会話を楽しんでいる。
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