47. 続けられるって、才能かも
昭和女子大学4年 樽谷三奈
「もっと強くなって戻ってくる」。コロナ禍の9月に行われた東京パラリンピック。2種目を終え、惜しくもメダルを逃した陸上女子の兎澤朋美選手(富士通)は、Twitterでこう発信し、しっかりと前を見据えていた。
元々芸能に興味があった私は、「いつか『推し』を取材できたらいいな」と思い、2019年10月にキャンパス・スコープに参加した。企画案を考える中で、幼なじみだった兎澤選手の取材を軽い気持ちで提案したが、五輪代表に比べ知名度が高いとは言えないパラリンピック選手。仲間にはまず、「誰なのか」を説明するところから始めなければならなかった。
そこに襲い掛かったコロナ禍。緊急事態宣言による外出自粛の日々。取材ができるのか、新聞が作れるのか、読んでもらえるのか――。手探りの作業が続く中、「困難に立ち向かう」私たち大学生の代表として、キャンパス・スコープ44号の一面を飾ってもらうべく、日本体育大学の学生だった兎澤選手の取材が決定した。
取材は困難を極めた。五輪・パラリンピックが開催されるかどうかも分からない不安定な状況。それでも練習を続ける選手や関係者に迷惑をかけるわけにはいかない。幼なじみをメールで取材するもどかしさ。困難に負けず、前を向き続けるためにはどうすればいいのか、そんなヒントを同世代に伝えたくて、何度も質問をぶつけた。
私が座右の銘にしている「何事にも全力を尽くす」は、兎澤選手から学んだもの。課題に対して丁寧に向き合い、何事にも目を逸らさない彼女の姿勢は幼いころから変わらなかった。キャンパス・スコープを知ってもらうために始めたSNSでの発信も、気づけば日課に。飼い犬の眼で大学生の日常を描くコラム「吾輩はワンスコである」は全15回、10000字を超える長期連載になった。「三日も続かない坊主」だった私が、休まずに投稿を続けることができたのも、兎澤選手の姿勢に感化されたからなのかもしれない。
競技を終え、雨の中でインタビューに応じた兎澤選手は、意外なほど冷静だった。「練習でできていたことができなかった」と課題を見つけ、「新しいことに挑戦したい人の後押しになれば」と続けた。「現実から目をそらさず、全力を尽くす」。頭ではわかっていても、自分にはできていただろうか、と改めて思い知らされた。
「おつかれさま」。試合を終えた兎澤選手に送ったLINEのメッセージに、「これからもお互い頑張ろうね」と返信があった。兎澤選手が一面を飾った44号から1年が経ち、4年生の私は、今月発行の45号を区切りにキャンパス・スコープを卒業する。大学院に進学し、もう少しだけ学業を続けるつもりだ。パリ大会を目指す幼なじみに負けないように、私も自分のフィールドで全力を尽くしていきたい。
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