55. 「大吉」の1年は
東洋大学2年・設永綾乃、イラストも
「木陰に臥す者は、枝を手折らず。己の利益のみを追求することなく、報恩感謝の思いで事を進めろ」。
2022年の年始に引いたおみくじは「大吉」だった。
しかし、書かれていた言葉は、「大吉」という割には、勢いに欠けるようにも思えた。いつもは、おみくじ掛けにかけるところだが、「せっかく引けたのだから」と、財布に入れておくことにした。
入学以来コロナに振り回されてきた大学生活を取り戻そうと、行動的な年にしようと思っていた。3月から4月にかけては、キャンパス・スコープの新歓担当に立候補。得意のイラストを活かしてチラシやSNSの投稿を担当し、PRのため、コミュニティFMの番組にも出演した。
趣味のアニメとマンガにも没頭した。特にアニメは、初めて1クールも欠かさず見続けた。対面授業が本格化する中、「毎週約束された楽しみがあることがこんなにも幸せなのか」と思った。慣れない「通学」でヘトヘトになった私に、アニメが活力を与えてくれた。
中でも、4月に再放送されていたアニメ「ツルネ-風舞高校弓道部-」が印象的だった。美しいキャラクターデザインに一目ぼれして見始めたのだが、全13話を終えた初夏には、「弓道をやってみたい」という思いが高まっていた。インドアな私が、地元の市が運営する弓道初心者教室に応募してしまうほどだった。
ところが、再び襲い掛かったコロナの感染拡大。開催2日前の7月29日、延期の連絡が届いた。あれだけ辛い対面授業の日々を過ごした果ての夏休みは、いきなりつまずいてしまったのだ。今までの私ならそこでくじけてしまうところだが、アニメに力をもらった。
「ツルネ」の主人公・鳴宮湊は、最終話でこう述べている。「世の中に起きることは、俺の早気だって、何か意味があるんだ」----。苦しみや辛さを、未来への期待に変えようとする湊のセリフに、何度も勇気づけられた。気を取り直し、弓道の稽古で埋めるつもりだった8・9月はアルバイトに明け暮れた。キャンパス・スコープでも、先輩による就活体験のコラムや、SNSで行ったメンバー紹介のイラストを担当。37枚のイラストを紙面やサイト、SNSを通じて発信することができた。自分だけのために描いていた絵が「誰かのために描くもの」になったのだ。
一方で、弓道への思いは高まるばかりだった。8月に公開された「劇場版ツルネ-はじまりの一射-」でさらに想いは高まった。11月には、延期された初心者教室に参加することもできた。そのまま市の弓道連盟に入会し、稽古を続けることにしたのだ。生で感じた弦音が、一つのことに打ち込む重さを教えてくれた。「大吉」の2022年は、様々な困難を経て、私の弓道人生の始まりの年となった。
2023年は私も3年生。就活の年だ。年の始めにはもちろん、おみくじを引いてみようと思う。中身はどうあれ、悔いのない1年するために。
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