「学生が意見をぶつけ合うことこそ平和」~東洋大学・矢口悦子学長インタビュー

 

 2022年7月4日、私が通う東洋大学で、ウクライナのゼレンスキー大統領によるオンライン講演が行われた。困難の中、国民や世界にメッセージを送り続ける大統領の「学びをやめないで」という言葉が強く心に残った。同国の3大学と協定を結び、研究者や留学生の受け入れに乗り出した矢口悦子学長に、私たち大学生に望むことを聞いた。(聞き手・東洋大学3年 福島彩加)

 

矢口悦子(やぐち・えつこ)
1956年、秋田県生まれ、お茶の水女子大学卒、同大学院人間文化研究科(博士課程)単位取得退学。博士(人文科学)。専門は社会教育学、生涯学習論。著書に『イギリス成人教育の思想と制度―背景としてのリベラリズムと責任団体制度』(新曜社、1998年)など。2003年から東洋大学教授。文学部長を経て、2020年から第44代学長。

 

学びを支援することならできる

 

――ロシアによるウクライナ侵攻の報道に接して、どう思いましたか?

 「平和を語れなくなってしまった」と感じました。21世紀に軍事侵攻が起こってしまった事に対し、大きな衝撃を受けました。私たちの世代は、武力ではない形で解決を図るための大枠を作ってきたはずでした。平和や国際秩序についての学びを学生達に促すと共に、私たちも国際規模での平和的な解決の実現に向けて行動してきました。でも、失敗してしまった。「平和や国際秩序を学ぼうと指導する資格もなくなってしまった」と思いました。

 

――東洋大学では、ウクライナの留学生を支援しています。

 こんな状況で大学に何ができるのだろう、と考えた時に、「学びを支援することだったらできるかもしれない」と思いました。東洋大学には、コロナ禍でも「学びを止めない」という合言葉のもと、教職員が一丸となって頑張ってきた経験があり、「学びたい」という意思を持つウクライナの学生を支援することにしました。そうは言っても、どれだけの学生が実際に来たいと思うのか半信半疑でしたが、キーウにある大学の学長とオンラインで話し、「日本に行きたい学生は多数いる」と聞いた時、決心がつきました。
 ただ、学生たちは簡単に出国できるわけではありません。「ウクライナから出られる?」「いや、ちょっと今は難しい」「とにかくどうにかしてポーランドに出てください、そうすれば後はこちらが手配しますから」----。こんなやりとりを重ねて、なんとか学生を日本に迎え入れることができました。

 

――そういった苦労を乗り越えて来日した学生が実際に東洋大学で学ぶ姿を見て、何を感じましたか。

 5月から実際にウクライナの留学生が東洋大学で学びはじめました。その様子を見て思ったのが、「これこそが平和なのだ」ということです。同じ授業には、政治的にウクライナと良好な関係ではない国からきた学生も沢山います。でも、学生たちは議論をし、互いの意見を出し合っていました。色々な立場の学生が武力ではない形で意見をぶつけ合える環境は、まさに平和と呼ぶにふさわしいと感じます。

 

 

世代を超えて同じ目標を

 

――私たち大学生は、平和のためにどのようなことを学ぶべきでしょうか?

 学びと「想像性」を育ててほしいと思っています。学びとは、冷静に多面的な見方をした上で、事実と思えるところまでたどり着くことです。想像性とは、テレビやSNSだけではなく、目の前で語られる言葉においても、混在する事実とあやしさを見極めることを指しています。人は全てのことを直接体験できるわけではありません。だからこそ、目や耳に入ってくる情報を見極める想像性が必要です。

 

――新型コロナウイルスの流行やウクライナ侵攻、安倍元首相の銃撃など、歴史の教科書で習ったようなことが繰り返されている印象も受けます。

 確かに一見、繰り返しているように見えるかもしれません。ですが、本当にそうなのでしょうか。そこには過去とは違う意味が含まれているかもしれません。その意味を、自分で確かめてほしいと思っています。

 

――私たちがいかに平和慣れしていたかを痛感しました。平和を守っていくためにも、問題提起をして行動していかなければならないと強く感じています。

 平和を実現するためのやり方は重ねた経験によって異なるかもしれません。でも、世代を超えて同じ目標を目指したいと強く思っています。ぜひ、共に学び合っていきましょう。

 

取材を終えて
 矢口学長は、平和のための努力が実を結ばない現状に対し、諦めないことの大切さを語った。アプローチは学生と大人とでは異なるかもしれないが、同じ目標を掲げることで世代を超えて団結し、行動できる。そうすれば、必ず平和は実現できる。そのためにも私たち大学生こそが、まず行動しなければならない、と感じた。

 

ゼレンスキー・ウクライナ大統領の講演は >>こちら

(2022年8月19日 10:16)
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