美術館の裏側を見たことはありますか?展示作品はどのようにして決められ、あるいは購入されるのでしょう。どうやって管理されているのでしょうか。ドキュメンタリー映画「わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏」は、ふだん知ることのできない美術館の舞台裏にフォーカスした作品です。7月15日からの全国順次公開に先立ち、東京都内で行われた試写会とトークイベントを取材しました。(慶応義塾大学・吉野彩夏)
休館のタイミングとらえ撮影
国立西洋美術館は、明治から昭和にかけて政財界で活躍した松方幸次郎の「松方コレクション」を基礎に、約6000点を所蔵しています。西洋美術コレクションとしては東アジア最大級です。建物は近代建築の巨匠ル・コルビュジエの作品で、世界遺産に登録されています。撮影は2020年、美術館を創建時の姿に近づける整備のため、休館に入ったタイミングをとらえて始まりました。
トークイベント後に撮影に応じる国立西洋美術館主任研究員の川瀬佑介さん(右)
所蔵作品の修復、コレクションの調査研究、地方巡回展や特別展の企画などを1年半にわたり、詳細に記録しています。リニューアルに伴う所蔵作品の「引っ越し」、美術作品購入の過程など、美を追い求める学芸員(キュレーター)の姿が収められています。大墻(おおがき)敦さんが製作・監督・撮影・録音・編集をしました。
試写会とトークイベントは6月23日と7月4日に行われました。6月23日のイベントには、映画にも出演した国立西洋美術館主任研究員の川瀬佑介さんと美術ブログ「青い日記帳」を主宰するTakさんをゲストに迎えました。映画の見所について川瀬さんは作品購入会議の場面をあげ「購入プロセスにカメラが入ることはなかったのではないか」と話していました。
「予算ない」現状に危機感
7月4日は滋賀県立美術館館長の保坂健二朗さんとウェブ版美術手帖編集長の橋爪勇介さんを迎え、美術館の予算の問題などを取り上げました。保坂さんは「購入予算が全くない美術館も多い。美術作品を買った経験のないキュレーターが多く存在する現状は問題ではないか」と危機感を示しました。今後の展覧会開催に関しては「リスクをとってもさまざまなタイプの美術展をやっていきたい。出資者を見つけ多様な展示会を開くべきだ」と語っていました。
滋賀県立美術館館長の保坂健二朗さんは美術館が抱える問題を指摘した
国立西洋美術館では7月4日から9月3日まで「スペインのイメージ 版画を通じて写し伝わるすがた」が開催されています。川瀬さんが企画しました。購入にも関わったスペインの画家ホアキン・ソローリャの「水飲み壺」が初めて展示、公開されています。展示作品を見ていると、イベントでの川瀬さんの言葉が思い出されました。「美術品の購入は新たな西洋美術との出会いです」――美術館の舞台裏を知った後だっただけに「出会い」の重みも感じます。映画が美術展の見方を変えてくれました。