第9回「本の甲子園」地方大会から 聴覚障害の生徒の挑戦
図書室で本について談笑する田中教諭と福永さん
第9回全国高等学校ビブリオバトルは1月22日に立命館大学大阪いばらきキャンパスでのファイナル大会(ファイナル大会の模様はニコニコ動画生放送で視聴可能です)で幕を下ろしました。
今大会は43の都道府県で地方大会が開かれました。面積が広い県では地域大会があり、学校によっては、学校代表を決めるためにクラス予選、学校予選を行っているところもあります。「人を通して本を知る、本を通して人を知る」というビブリオバトルのキャッチコピー通り、本というメディアを通して様々なドラマが生まれました。そのひとつを紹介します。
2022年10月22日に行われた千葉県大会。初めて聴覚障害のある高校生が参加しました。筑波大学附属聴覚特別支援学校高等部2年の福永心雪(こゆき)さん。同校は今年6月、図書委員会の主催で初めてビブリオバトルを行いました。チャンプ本を獲得した福永さんに、図書委員会顧問の田中優子教諭が「県大会があるんだけど出てみない」と声を掛けます。「出てみたい」という福永さんの言葉に、「この子なら大丈夫」と確信した田中教諭は主催者の県教育委員会に参加を申し込みました。
県教育庁教育振興部学習指導課のスタッフは、どのようにすれば聴覚障害の生徒の発表を参加者に伝えることでができるのか、話し合います。その結果、事前に福永さんの発表内容をもらってプロジェクターに映し出す、他のバトラーの発表内容や質疑応答にも参加できるように手話通訳を2人手配することにし、受け入れ態勢を整えました。そして、迎えた県大会。福永さんは、個性豊かな猫が野生の世界に飛び出していく「ウォーリアーズ」(エリン・ハンター著、小峰書店)を紹介します。5分間の発表が終わると、会場には大きな拍手が起きました。
大会前、田中教諭は福永さんと約束を交わしたそうです。「他の参加者の発表に必ず質問をして、大会を盛り上げようね」。福永さんは予選で積極的に手を挙げて質問を続けました。予選通過はなりませんでしたが、「私以外はみんな健聴者。でも、本が好きな人ばかり。本の話がたくさんできて楽しかったです」。
田中教諭は「ビブリオバトルに障害は関係ないと感じました。県教委の皆さんにいろいろと準備をしていただいて有難かったです」と振り返ります。
「『言葉にすればたやすくて』って言葉にしなきゃ分かんねえよ。君は伝えること諦めてはだめだ」。大ファンのロックバンドamazarashiの『それを言葉と言う』という歌のワンフレーズが大のお気に入り。鹿児島の親元を離れて同校に進学した福永さんは、大学で建築やデザインの勉強をしたいという希望を持ちながら学生寮で勉学に励んでいます。
(活字文化推進会議事務局 和田浩二)