「プラスチックごみ問題を考えよう」小学校とNPOが協働(横浜)

拾ったのは、釣りに使う疑似餌だった(1月16日、神奈川県茅ヶ崎市で)

この記事は、教育ネットワーク参加団体「NPO法人 海の森・山の森事務局」の活動を取材したものです

 

 「これは何ですか?」

 1月16日、横浜市立中尾小学校の5年生児童47人が、神奈川県茅ヶ崎市のサザンビーチちがさき海水浴場で、流れ着いたプラスチックごみをピンセットで拾っていた──。

 

 横浜市の公立小学校6校では昨年度、NPO法人と協働で、海洋環境への影響が危惧されているマイクロプラスチックをテーマとする「総合的な学習の時間」を行った。このうち、中尾小での取り組みを紹介する。

(教育ネットワーク事務局・秋山哲也)

 

海と教室で実習

 「これはペットボトルのキャップの破片だね。何の破片かな?と考えながら集めてみよう」。 

 NPO法人「海の森・山の森事務局」理事長の豊田直之さん(60)は、児童が差し出す破片について丁寧に答えていた。

打ち上げられたマイクロプラスチックを拾い集める中尾小の児童たち。マイクロプラスチックは、砂浜に帯状に残されていた。右は豊田さん

 マイクロプラスチック問題はここ数年、新聞記事で多く取り上げられていることもあり、総合の授業のテーマにする学校が増えている。中尾小学校では、環境問題に強い関心を持つ5年2組担任の田崎順子教諭が計画、豊田さんを主な外部講師に招き昨年9月から授業を行ってきた。

 

 初回の授業で豊田さんが見せた写真に、児童は衝撃を受けた。湘南海岸に打ち上げられたアオウミガメの体内から取り出された大量のプラスチックごみの写真だった。すぐに、「マイクロプラスチックを実際に見てみたい」という声があがり、茅ヶ崎の海岸での野外授業が実現した。

手にしているのはアオウミガメの体内から取り出されたプラスチックごみ(協力/NPO法人 エバーラスティングネイチャー)

豊田直之さん

冒険写真家/NPO法人「海の森・山の森事務局」理事長


 東京水産大学(現東京海洋大学)で魚群行動学を学び、1981年卒業。若い頃は漁師になる道も模索しながら、水中写真家の中村征夫氏に師事し、1991年独立。これまでに研究や取材で使用した空気タンクはおよそ2万本に上る。2019年にはアフリカ大陸最高峰のキリマンジャロ登頂も果たし、頂上付近の氷河の減少を目の当たりにした。2012年にNPO法人「海の森・山の森事務局」を設立、環境問題について講演活動などで伝えている。

 2018年から横浜市の小学校を対象に行った「子どもたちと取り組む未来へのゼロ・マイクロプラスチック大作戦」は、自然体験活動を支援する「2019年度 トム・ソーヤースクール企画コンテスト」(《公財》安藤スポーツ・食文化振興財団)において高く評価され、214団体の最優秀となる安藤百福賞を受賞した。

 プラスチック製玄関マットの緑色の破片や、工場から流出したと思われるプラスチック原料「ペレット」もある。その色の多彩さは、人工的に着色された製品の破片であることを物語る。児童は海岸に流れ着いた大量のプラスチックごみに驚いた。

 学校に戻ると、拾い集めたマイクロプラスチック片を材料にして万華鏡を作った。色は鮮やかだが、ゴミとして漂う人工物の存在を改めて認識した。

砂をふるいにかけると、さまざまな色をしたプラスチック片などが現れた
たくさん見つかった緑色の破片は、プラスチック製玄関マットの毛先部分だ
茅ヶ崎市の海岸で拾い集めたマイクロプラスチックを万華鏡で観察する児童たち=豊田さん提供
万華鏡の世界は美しいが、人工的な色彩がやや不気味な雰囲気を作りだしていた=豊田さん提供

プラスチックごみ 負の側面

 人間が豊かな生活のため作り出したプラスチック製品は、軽くて使いやすいが、ゴミになると下水から川へ、そして海にまで流出してしまう。その量は年間800万トンともいわれ、世界各地で深刻な海洋汚染を引き起こしている。

 海面付近を漂うマイクロプラスチックは石油が原料のため、同じように海面付近を漂う石油系の有害な化学物質を誘因・付着しやすい。有害物質の付着したマイクロプラスチックを餌と間違えて魚が食べてしまうと、有害物質の一部が魚の体内に蓄積される可能性が確認されている。

 

「授業の成果 エコバッグ」

 「レジ袋の代わりに、私たちが作ったエコバッグをぜひ使ってください──」

 今年2月17日から約2週間、横浜市旭区内の総合ディスカウントストア店頭に、個性的な柄のエコバッグがお目見えした。買い物客にシェアして使ってもらおうと、5年2組の児童たち全員で作ったものだ。

 身近なプラスチックごみであるレジ袋の消費を減らすために議論を重ね、解決方法としてたどり着いたのが、シェアして使うエコバッグのアイデア。校内にあった不要な傘の布を使って縫い上げた。

 「返却されず、なくなってもいい。誰かの手にわたり使ってもらええるなら...」

 1月には地元の総合ディスカウントストアを訪れ、自分たちの熱い思いを店長に訴え、コーナー設置の了解を取り付けた。環境への思いが込められたエコバッグを実際に使用したお客さんからは、児童たちへの激励のFAXも寄せられたという。

児童たちが制作した共用エコバッグ=豊田さん提供

地元の総合ディスカウントストアの店頭に置かれた=田崎教諭提供

 

社会を動かすことができた自信

 中尾小では新型コロナウイルスの感染拡大による休校もあり、3月の授業が実施できなかったが、田崎教諭は普通の授業では得られない手応えを感じ、豊田さんへの感謝を寄せた。

 「豊田さんが撮影されたすばらしい写真や、プラスチックごみの現状を伝えるお話しに子どもたちは惹かれ、自発的に知識を深めました。また生活の中でできることを主体的に探し、社会とつながり、それを動かす経験を得たことは大きな成果です」。

 


 豊田さんは2020年度も、環境問題に関する出前授業を、横浜市内の小中学校を対象に、依頼のあったクラスで実施している。問い合わせはNPO法人海の森・山の森事務局(担当:豊田)へ。

■電話 090-3476-1037

■メール toyo-da@nifty.com

>>NPO法人海の森・山の森事務局 ウェブサイト

取材を終えて

 便利な生活をもたらすプラスチックは、それがごみとなり海に流れ込めば、海の生き物を危険にさらすだけでなく、人間の健康を脅かす存在となり得る。それを知った児童たちは、解決への道筋を探そうと、砂浜と教室でマイクロプラスチックと向き合った。

 海も川も近くにない中尾小だが、熱意のある担当教諭と専門性の高いNPOとの協働によって、環境教育のお手本のような授業が実現した。今話題となっているテーマを、現場感をもって学ぶことができるこのような授業は、今後ますます必要になってくるはずだ。

 児童の素朴な興味や観察力を尊重する豊田さんの指導。新鮮な発想や提案を引き出すためには欠かせないポイントであると強く感じた。(秋山哲也)

 

(2020年4月 2日 13:30)
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