大阪府池田市の大阪教育大学付属高校池田校舎で5月下旬、主権者教育の授業を行った。10歳代の高校生や大学生を対象にした主権者教育の狙いは、政治との距離を縮めることだ。政策の是非をどう判断すれば良いのか。「50年先の高校」をテーマとして、来年度に選挙権年齢の18歳を迎え、有権者となる2年生約160人に体験してもらった。
「50年先の高校」を考える前提は人口減少だ。日本の総人口は、今の1億2000万人台が、2070年には8700万人となる。少子化で生徒数は減少し、高校にとっては授業料収入が減る心配もある。授業や部活など、充実した学校生活を送る財源が足りなくなるかもしれない。生徒に問い掛ける。
「『授業料を引き上げる』『地域の人たちが負担する』『借金で賄う』の三つの案がある。どれを支持する?」
3案のメリット、デメリットをグループで話し合うと......
「『授業料引き上げ』は学校生活をより良くできる。親の経済的負担は大きい」
「『地域が負担』なら学校と地域との関係が深まる。子どものいない人にメリットはない」
「『借金』だと親の負担は増えない。でも、どうやって返すのだろう」
生徒はそれぞれの案に対する意見を、手元に配られた付箋に書き込む。「最も好ましい」案の付箋をホワイトボードに貼り付けていく。「投票」結果は――
授業料引き上げ=77票
地域が負担=35票
借金=38票
政策を評価するには、判断材料となる情報が必要だ。
「少子高齢化で社会保障費は増大し、保険料など現役世代の負担は重くなっている」「日本は既に1000兆円を超す借金、国債に依存している」「高速道路など社会基盤は老朽化し、維持管理に予想以上のお金がかかる」
日本の現状を説明した後、生徒に改めて問いかけた。
「果たして最も好ましい案はどれだろう?」
2回目の投票結果は――
授業料引き上げ=107票
地域が負担=31票
借金=19票
受益と負担が一致する形の「授業料引き上げ」が支持を伸ばし、「借金」は半減、「地域が負担」に抜かれた。
終了後にアンケートを行い、生徒に感想を求めた。 「情報によって投票結果が変わることを目の当たりにした」「正しい情報を得られなければ取り返しのつかない判断をしてしまう」
情報の大切さを実感しただけでなく「未来のためにも選挙に行くことは大切だと思った」という意見も寄せられた。
若者と政治との距離を縮め、政治参加を促すヒントも浮かび上がる。アンケートで「選挙権があれば投票に行く」と答えた生徒のうち「投票で政治を変えられる」との回答は79%に上った。一方、「投票に行かない」という生徒では「政治を変えられる」は63%だった。自らの一票で政治を動かすことができる。こうした実感を持てるか否かが、政治参加のかぎになる。
【教育ネットワーク事務局記者・渡辺嘉久、写真はキャンパススコープ学生記者・中西美琴(立命館大学)】