ぬまっち先生コラム11 みんながティーチャー(4)

藤の実フェスタでの「鎌倉室町ティーチャー」。授業でも踊りは忘れない! 後ろの壁には「諸説あります」(2015年10月31日、世田谷小で)

沼田 晶弘


第11回 みんながティーチャー(4)


 

♣晴れの舞台「藤の実フェスタ」

 昨年10月31日土曜日、世田谷小で開かれた「藤の実フェスタ」は、この5か月間の「歴史ティーチャー系プロジェクト」の中間決算となる大舞台でした。

 藤の実フェスタは年に一度の学習発表会で、保護者の皆さんに対して、子どもがふだんの勉強の成果を披露する場です。

 ボクたちのクラスの出し物は、まずTPS=「達成プロジェクト紹介」チームがプロジェクトの仕組みと最終目標を紹介。そのあと、AHT=「飛鳥平安ティーチャー」とKMT=「鎌倉室町ティーチャー」が公開授業を行いました。さらに、このコラムの第3回でも書いた「ダンシング掃除」を2回披露。(2回目は掃除抜きでしたが。)これらのプログラムを組み立て、プロデュースしたのが、FHK=「フェスタ本気で考える」プロジェクトチームでした。

 AHTとKMTは、これまでやってきたティーチャー授業を基に、それぞれ30~40分の公開授業にまとめ直したものです。「生徒」は保護者の皆さんでした。

 

♥魔法の言葉「諸説あります」

 子どもたちはこの日のために、何日もかけてリハーサルを繰り返しました。ある子のプレゼンに関して、クラスメート同士でかなり厳しい意見が飛び交い、「ちょっとキツすぎない?」という声も出ました。でも、ボクは言いました。

 「今はそういう時間なんだ。言われた彼女だって決してイヤじゃないはず。ボクたちは仲間なんだから、今気づいたことは全部言わなきゃダメだ。それはきっと本番で生きてくるから」

 リハーサルの時にボクが言い続けたのは、「自分の言葉でしゃべれ」ということです。

 シナリオを丸暗記して、一言一句間違えないでしゃべれたとしても、それは勉強にはならない。大事なのは歴史の流れを理解することで、その時その時で表現する言葉が変わってもいい。たとえ間違ったっていいんです。

 「諸説あります」

 ボクの発案で、教室の壁にでかでかとこう書いた紙を貼りました。「これ、キミらのお守りだから」

 卑弥呼だって聖徳太子だって、誰も実際に会ったことはないんだから、本当のことはわからない。誰かにツッコまれて困ったら「諸説あります」。子どもたちだってちゃんと調べているので、根拠がないことはしゃべっていない。ただ、学説もどんどん新しくなるし、歴史解釈の違いもあるから、議論が平行線になることもあります。そこは守ってあげないといけないと思ったからです。

 

♠失敗さえも笑いに変えるテクニック

 本番の日は、ボクは何もすることがありません。保護者の人たちと話をして、一緒に授業を聞いているだけです。

 子どもたちはさすがでした。いつもの授業のように、一方的にしゃべるのではなく、常に観客(=保護者)を巻き込もうと工夫します。

 たとえば、飛鳥平安ティーチャーで「武士の起こり」を説明する時、「最初の武士の姿はなんだったと思いますか?」と、保護者に質問を振った子がいました。でも、後ろのパワポ画面には答えが書いてある。指された保護者が「......農民?」と答えると、振り返って「あれっ、書いてありましたね!」。ここでドッと笑いが起こりました。場がほぐれます。

 この部分、実はツッコミ待ちの「仕掛け」でした。リハーサルの時に、「答え、出てるじゃん」と子どもたちも気づいていました。「でも、それツッコミどころで良くない?」と、あえて残したんです。失敗と見せて笑いを取るトーク術です。

 ある男の子は、最前列にいた自分の母親に、「どう思いますか、そこのオネーサン!」と振って、一瞬の静止の後、その親子を知っている保護者は大爆笑。場が一気にあたたまりました。これはなかなか言えないと、このボクでさえも感心しました。

 子どもが一生懸命やるから、大人がリアルに驚いたり、笑ったり、感心したりしてくれる。その緊張感がどれだけ子どもたちを成長させているか。用意したいすが足りなくなるくらい来てくれて、そんな「学びの場」を一緒に作ってくれた保護者の皆さんには、この場を借りて深く感謝します。

 

♦期待という名のプレッシャー

 ここで「みんなよくやった。めでたしめでたし」となるところですが――。

 「よく頑張ったけど、プロとしてもう少しできたんじゃない?」と、最後にあえて突き放しました。「プレゼン力はついたけど、トークのテクニックが全然足りない。テンポが悪いし、もっと抑揚もつけなきゃね」

 ボクは本物志向なんです。簡単に手放しで褒めるわけにはいかない。

 厳しすぎますか? いや、この子たちならもっとできるんですよ。ボクはそう信じているから、これからもハードルを上げ続けます。

 そうすると、子どもたちが口をそろえて叫ぶんです。うれしそうに。

 「出たぁ、期待という名のプレッシャー!」

 そう、ここは世界一のクラスですから!


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沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。

 

(2016年1月18日 10:00)
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