ぬまっち先生コラム10 みんながティーチャー(3)

質問のために手を挙げる必要がないのが沼田式。子どもティーチャーに自ら突っ込むタンニン(10月9日、世田谷小で)

沼田 晶弘


第10回 みんながティーチャー(3)


 

♣「遊んでない、勉強してるんだ!」

 ある家では、父親と子どもの間でこんなやりとりがあったそうです。

 「パソコンでいつまでも遊んでんじゃない!」

 「違う、これは勉強なんだよ!」

 「小学校の宿題でそんなにインターネットが必要なハズないだろう!」

 その子もやっぱり歴史ティーチャープロジェクトのメンバーで、自宅のパソコンで戦国武将について長時間調べものをしていたらしい。それなのに「遊んでる」と濡れ衣を着せられて、その子は泣いて抗議した。よく見てみると、本当に歴史関係のページしか閲覧してない。お父さんはその子に謝り、プリンタでの出力を手伝ってくれたそうです。

 ボクも本当は紙の本で調べたほうがいいとは思うけれど、やはりネットはスピード感があるし、信頼できる情報も多い。小学生でもメディアリテラシーをきちんと教えた上で、パソコンやインターネットを勉強で活用するのは悪いことじゃないと思っています。

 前回、リベンジを果たした「足利尊氏ティーチャー」のひとりは、誕生日のプレゼントに、足利尊氏の伝記本を親にねだったそうです。親もびっくりしただろうなあ。道理で、ボクよりも尊氏に詳しいわけです。こんなふうに、歴史ティーチャーたちはとにかく徹底的に「自分で勉強」しようとします。

 

♥タンニンをビビらせるために、でいい

 ところで、小学生って何のために勉強するんでしょう?

 親は「将来のため」って言うかもしれませんが、小学生で勉強する理由について理解しているのは、医者か弁護士を目指している子くらいでしょう。資格を取るにはどうするか、という目標が明確だからです。それ以外の子たちは、勉強する意味がよくわかっていない。学校で勉強を「させる」ことが難しいのはそこです。

 でも、子どもたちは楽しければ勝手に勉強する。子どもの知的好奇心は本当はとっても高いからです。ボクは子どもティーチャーにも(生徒として!)容赦なくツッコみますが、けっこう難しい質問にさらりと答えてくる。そんな時、ボクはマジでビビってみせます。(いや、本当にビビってます。)

 クラスメートの前でしゃべるのが楽しいから、タンニンをビビらせるのが楽しいから、彼らは歴史ティーチャーをやりたがる。それでいいのではないかと思います。

 

♠子ども同士で作る「学びの場」

 もう一つ大事なことがあります。子どもがやる授業は、子どもが真剣に聞くんです。前々回に書いたとおり、織田信長ティーチャーは2時限通しという長丁場でしたが、教室の集中力は最後までバラバラになりませんでした。それは別に、大人のギャラリーが多かったこととは関係ない。授業をする側と受ける側に、強い信頼関係があるからです。

 ボクが授業をやることは、学びの場をつくることです。でも、ティーチャー系授業は、子ども同士がつくりあげる場です。その時ティーチャーでない子も、準備の時にティーチャー役の子によくアドバイスしています。ボクがアドバイスするより、胸に落ちやすいかもしれない。ティーチャー系授業には、クラスの一体感を高める力もあるんです。

 

♦教科書どおりではないけれど

 子どもたちはすごくよく調べているから、彼らの意識の中では、ちゃんと歴史が一本の線でつながっています。ただ、それを授業として語ると、その線が蛇みたいに波を打って、水面の上を出たり入ったりするので、聞いている方はブツ切れのように感じてしまうことがあります。黒板に図を描いてみましたので見てください。

 そこを何もしないでほうっておくと、「わかりにくい授業」になってしまう。結局、調べまくったことが伝わらず、ティーチャーたちの自己満足に終わってしまいます。

 ティーチャー授業の時にボクがあえてツッコむのは、その「つながり」が見えにくくなった時なんです。質問することで水面を下げ、みんなの視界を良くしている。一応タンニンなので、その辺はしっかりコントロールしています。で、うちのクラスの子どもたちは、その辺の呼吸もよくわかっている。

 6年生の歴史教科書を見てもらうとわかりますが、この歴史ティーチャー授業は、教科書の内容はしっかり押さえています。その上で、小学生が学ぶ範囲を超える授業になっているかもしれません。しかし、各プロジェクトは自発的なもので、本質的に自学自習です。無理に宿題を出してもいません。

 歴史ティーチャーは、どうしても「興味ある人物・事件」中心になるところも確かにあるでしょう。しかし、子どもティーチャーの間の歴史的スキマはボクが授業で埋めていますし、歴史をただ出来事の羅列でなく、生きた人間のドラマとして理解するにはこちらの方がいいのではないでしょうか。

 ただ教科書どおりに知識を覚えさせられるのと、このティーチャープロジェクトと、どちらがより「学び」になるのか? ボクの答えははっきりしています。


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沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。

 

(2016年1月11日 10:00)
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