進路室は海[14]梅雨の味のジェラート

[14]梅雨の味のジェラート

 

 学校の帰りに、横浜駅の西口地下街へ。有隣堂で雑誌をチェックし、気になっていた新刊を2冊買う。

 買ったばかりの本を小脇に抱えて自由通路を行くと、「あ、ちばさと!」と呼ばれた。振り返ると、卒業生の男子だ。たしか、もう二十代半ばになるはずだ。

「お、久しぶりじゃん!元気?」

「うん。まあまあ。それより、ちばさと、何かおごってよ」

平日の夕方なのに、彼はスーツ姿ではない。カバンも持っていない。服装が自由な会社で働いているのかな。それとも......。

 近くにあったジェラートの店へ行く。二人とも、大きめのカップに二種類のジェラートを盛りつけてもらうことにする。俺が「梅雨だから、梅雨っぽい味にしようかな」と、ストロベリーとイタリアンチョコレートを選んでも、彼は特に反応なし。ここは、「え?梅雨っぽい味なんて、あるの?」とか「それが梅雨の味?」とツッコミを入れてほしいところだったのに。

 ベンチに並んで座り、「仕事は?」「あんまり面白くない」と話しただけ。彼は彼の、俺は梅雨バージョンのジェラートを黙って食べた。

 

 

コーンの先を齧ればなみだするアイスクリームのわが愛しかた

杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』

 

 これから渋谷へ行くという彼と別れるときに、俺は彼の顔をじっと見た。

「こうしてみると、まだ高校生に見えるよ。『なんで制服を着てこないんだ!登校時には制服着用だ!』って叱っちゃいそうだ」

 そう言うと、彼はようやく笑ってくれた。

 別れたあと、口の中に残るストロベリーの香りは、ほんの少し梅雨っぽかった。

 

 

ゆふぐれの雨明るけれ氷菓にも蛇にも見放されつつ歩む

水原紫苑『びあんか』

 

千葉 聡 @CHIBASATO

1968年生まれ。横浜市立桜丘高校教諭。歌人。第41回短歌研究新人賞を受賞。生徒たちから「ちばさと」と呼ばれている。著書に『飛び跳ねる教室』『短歌は最強アイテム』。3月に発売されたショートショート集『90秒の別世界』、ぜひご一読ください。

今年は7月20日から夏休み。最初の週は、夏期講習「小論文を書こう」と「センター現代文に挑戦」を開きます。2週目には陸上部の合宿で新潟へ。頑張ります。みなさん、よい夏休みを!。

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(2019年7月17日 15:06)
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