沼田 晶弘
第16回 真ん中にIがある(1)
♣100個目の花が咲いた!
ついに、子どもたちがやり遂げました。
教室に100個目の花が咲いた!
「100輪の花」の章で書いた、子どもたちのプロジェクト達成数が、1月29日にちょうど100になったのです。
記念すべき栄誉は、東京新聞主催の第13回「新聞切り抜き作品コンクール」努力賞。ひとつのテーマを決めて、いろいろな新聞から記事を切り抜き、大きな模造紙に感想やコメントとともに貼り付けるというコンクールです。
ボクたちのクラスのSKC=「新聞切り抜きコンクール」プロジェクトのメンバーが「税金」というテーマを決めて、冬休みの間にクラス全員が気になった記事を切り抜いて持ちより、それをメンバーが1枚にまとめました。小学生だって新聞を読んで、「軽減税率」や「消費税」に関心を持っているんです。
その吉報は教室に手紙で届きましたが、久しぶりのコンクール受賞だったためクラス内は大騒ぎ。さっそく花と看板台紙を飾って、全員で記念撮影しました。
その後も次々花は増え続け、先週末には何と111!
いま、教室の壁はすごいことになっています。花と台紙の「殿堂」が後ろの壁からどんどんはみ出して、廊下側の壁をほぼ埋め尽くし、反対の校庭に面した窓側まで侵食しています。つまり、4方ある壁の3方が「お花畑」状態。壮観です。
まだ結果待ちのコンクールもあるし、「卒業までに、まだまだ行くぞ!」と子どもたちの鼻息も荒い。この調子では、教壇や黒板まで花で埋まってしまいそう。やばい、ボクのいる場所がない!
100個目の花は「新聞切り抜きコンクール」努力賞 |
♥クラス文化支えた「地味系の花」
ところで、達成プロジェクトを改めて眺めてみると、ちょっと意外なことがわかりました。
ボクたちのクラスのプロジェクトは大きく3つに色分けできます。
リアル社会とのつながりで自己効力感アップ、ついでに賞金までゲットできる「コンクール系プロジェクト」。調べ学習に前章で紹介した「アナザーゴール」理論を応用した「ティーチャー系プロジェクト」。そしてクラス内の文化を作り、信頼関係を構築するための「学級文化系プロジェクト」。「殿堂」のお花畑では、派手なコンクール系がどうしても目立つのですが、全体を数えてみると、実は一番多かったのが「学級文化系」だったのです。
学級文化系プロジェクトとは、クラスの雰囲気を盛り上げるプロジェクトです。
例えば、達成したプロジェクトメンバーのために花つき看板を作るプロジェクト。ボクたちのクラス文化とも言える「挨拶代わりにハイタッチ」を促進するプロジェクト。給食を全部食べるプロジェクト(ちなみに、これまでボクの担当したクラスは、ほとんど残食を出したことがありません。この話はまたの機会に)。新しいダンスを考えるプロジェクト。運動会に勝つために競技を強化するプロジェクト、同じく下級生の競技指導を行うプロジェクト、などなど。
地味なプロジェクトも、ちゃっかり便乗プロジェクトも、たった3分で達成できちゃったプロジェクトもあります。すべての花が、「へえ、すごいね」と言われる達成じゃないかもしれない。でも、こうした学級文化系プロジェクトがたくさんなかったら、ここまでクラスの一体感は出なかったとボクは思います。
そう考えると、教室に咲く100個の花のすべてが、まさに「世界で一つだけの花」なんです。ひとつひとつに優劣なんてつけられない。
つい先日、2014年の秋にこのクラスで教育実習をした大学生が教室を訪問してくれました。彼女は、ダンシング掃除を見てびっくりし、「テレビに出られるよ!」と子どもたちに指摘した人。そのダンシング掃除で卒業論文を書くために、昨年の春も教室に通っていました。めでたく今年の4月から都内の小学校で先生をすることになっています。彼女は教室中の花を見て絶句し、涙ぐんでいました。
「昨年の5月ごろは、あんなに少なかったのに......。子どもたち、がんばったんですね......」
ボクもちょっと、ぐっと来ました。
♠3学期、ボクがあえて言ったこと
さて、1月から3学期が始まりました。6年生の子どもたちにとっては、卒業まで実質2か月と少し。始業式の日、ボクは子どもたちにこう言いました。
ボクはもう、君たちに説教するべきことはない。もう何もチャレンジしなくても、君たちは2月末の卒業遠足で帝国ホテルに行けるし、リムジンにも乗れるだろう。もう何もしなくても、君たちは3月に卒業して、4月から中学生になる。
でも、だからこそ、人生で何かのチャレンジをするなら、この最後の2か月じゃないのかな。
なぜかって、こんなにいいクラスで、何をやっても認めてくれて、何もかもゆるしてくれる仲間たちは、なかなかいないから。このメンバーと今ここに一緒にいることが、最高のチャンスだから。
何もしなくても卒業、さらに何かをやっても卒業。どっちにする? 選ぶのは君たちだ。
もしこの2か月で、さらに何かを成し遂げることができたら、帝国ホテルで食べるディナーは、ちょっと違う味がすると思うよ。ただお金を払って食べるのと、きっと一口一口が違うはず。どんな味がするだろう?
あとは君たちで考えてね。
子どもたちはみな、神妙な顔で聞いていました。
15<< | 記事一覧 | >>17 |
沼田先生略歴
ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。初の一般向け著書『「やる気」を引き出す黄金ルール 動く人を育てる35の戦略』(幻冬舎)が2月25日に、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)が3月24日に刊行予定。