異見交論4「社会も意識の転換を」安西会長に意見や質問(2)

安西祐一郎 中央教育審議会会長

 高校と大学、その間に横たわる入試の一体的な改革――これまでとは次元の異なる改革の理念には共感しながらも、不安を訴える声もあります。「高大接続」答申をまとめた中央教育審議会の安西祐一郎会長に意見や質問が寄せられています。前回に続いて、その一部を紹介します。(聞き手・専門委員 松本美奈)


 

■「公平性」転換、社会にこそ必要 高橋浩太朗さん(大学職員)

――大学職員、高橋浩太朗さんからの意見です。

 

 本答申は、非常に根本的な理念を示していること、またそれに伴いこれまでの「入学者選抜」だけにフォーカスされがちであった高大接続の課題に対し、高校、大学それぞれの変化を求める点で、画期的な答申と受け止めている。

 特に、これまで大学の入学者選抜を強固に規定してきた「公平性」に切り込んだことは大変に有り難くもあり、同時にこれから未踏の領域に踏み込む点での不安を禁じ得ない。

 公平性という価値観の転換は、社会にも求めることが必要と考える。社会に対して変革を訴えることは個々の大学で手に負える話ではなく、国や中央教育審議会が社会の側の評価軸も変えるよう働きかけてほしい。

安西 その通りです。いまの入試が求める「公平性」は、受験生の家庭の所得格差や、出身地、障害などを無視した、その時点での「公平性」に限定されています。新しい公平性を実現するには、大学はもちろん、社会全体で考え、議論していくことが不可欠です。

 

 学生が将来の社会に対応するために求められる変化であれば大学側は真剣に取り組まざるを得ない。が、本答申では変化する新しい社会に対応しなければならないのはあたかもこれから教育を受ける学生だけであるような記述となっている点が気になった。

 学校教育を取り扱う本答申の射程でないことは理解しているが、今現在社会で働く層も変化に対応する必要があり、それ故に今回の改革は変化後の社会に焦点を合わせるものであるという点はもう少し強調しても良かったのではないだろうか。

安西 そうですね。先ほどの「公平性」もそうですが、いま社会を担っている大人自身が価値観や判断基準を見直さなくてはならないと思います。

 

 選抜の機会を複数とすることや多面的な評価を求めることの意義は十分に理解できるが、現行のセンター試験ですらあまりにも厳格に実施・運営を行った結果、大学側の負担は年々増大している。

 大学からすれば、すでに過大とも言える労力を注いでいる入学者選抜において更に新たな負担になることを懸念している。教育・研究という大学の根幹を支える業務にリソースを戻せるような改革となることを期待したい。

 大学学力評価テスト等は引き続き検討とのことであるが、未だに答申内で考えの定まらない点も多いことや、答申の趣旨を実現するためには課題も多いこと等から、今後の議論も注意深く見守っていきたい。

安西 職員と教員とは、大学という車の両輪。中でも職員の方々が、大学改革のキーパーソンだと思っています。見守るだけでなく、ぜひ、今後の議論に参加してください。皆さんの英知とともに、この改革を実現したいのです。

 

就活のようす
インターンシップ説明会に参加する学生(画像加工しています)

 

■目の輝いた人材を 中澤二朗さん(会社員)

――企業の人事担当者という立場からの意見です。

 

 安西先生はインタビュー(下)の中で、精華大学(中国)の例を引いておられました。私もかつて海外からの学生の面接をして感じたのは、単に頭のよさだけでなく、目の輝きが違うことでした。

 直接入試につながる話ではないので恐縮ですが、では、どうしたら社会や仕事に、そんな前向きな人をつくれるのか(建設的否定も含めて)。

 足下のキャリア論を超えて、さらに議論されていることがあれば教えて下さい。目が死んだ人は、どんなに賢くても企業の人事担当者としては興味を示せないからです。

 ただ、他方、私たち大人も、もっと前向きにならなければならないことは言うまでもありませんが。

安西 「目の輝いた人」、それこそまさに主体性を持った人だと思います。今回の改革で引き出したい素養のひとつです。主体的に社会とかかわり、考え、行動する。そこでさまざまな人との切磋琢磨も経験する。その中でこそ、目が輝いていくのではないでしょうか。

 次世代の人のことだけでなく、ご指摘の通り、私たち大人が、まず目を輝かせ、社会に、仕事に、学問に向き合うことが必要です。その姿を見せないで,子どもにばかり「主体性を持って、協働しなさい」ということはおかしな話ですね。ご意見をありがとうございます。

 

 

■「主体性」は年々低下している 黒田るな子さん(会社員)

――就活支援を通じて気になっている点を挙げてくださいました。

 

 私は毎年1月のこの時期、母校の大学3年生に対して就活支援を行う大がかりなイベントに参加しております。参加する度に感じるのは、主に以下の3点です。

 

①知力はそれほど変わっていないものの、安西氏の言う「主体性」が年々低下している

②「表面的な協働」にエネルギーを注ぐ(皆と浅く仲良くつながって孤独感を回避しているだけで、その結果何かを生み出そうというものではない)

③答えを出してくれるまで口を開けて待っており、自分で答えを見つけようとしない (それはひいては主体性が欠けているということだと思いますが)

 

 今回の改革により、これらの状況が変化することを期待します。

 さらに付け加えるならば、入試改革で試験内容やプロセスを変更するということは、学校で教える教師にも意識改革が求められると思います。

安西 ありがとうございます。今回の改革の狙いは、一人ひとりの子どもが幸せに生きていける力を確実に持てるようにすることです。そのために必要なのは、まず主体性です。改革を推進していけるよう、応援してください。 教員養成についてもそのとおりです。文部科学省内で検討が始まっています。育てる人をどう育てるか、この問題についても、注意深く見守っていただきたいと思います。

 


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(2015年1月30日 12:22)
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