沼田 晶弘
第30回(1) 最後に言いたいふたつのこと
♣最後の授業を始めます
では、これから最後の授業を始めます。
どうだった? さっきの卒業の会は。
「お話が長かった」
ふむふむ。
「意味がよくわかんなくて、つまらなかった」
あれあれ。
「特に感動しなかった」
そう言うと思ったよ。ホントはハイタッチとか、クラスネーム発表とか、うれしいこといっぱいあったと思うけど、言わないよね。でも、顔見たら、みんなが満足してるのはわかるよ。
うーん、あんまりいい思い出を語る人がいないね。せっかくの卒業の会なのにね。相変わらず素直じゃないなあ。
さて、何を話そうかいろいろ考えたんですが、みなさんに最後に言いたいことは、ふたつしかありません。
♠失業しても「いいことあるぞ!」
ひとつめ。
今みんなに、卒業の会どうだった? と聞いた時、ネガティブな答えばっかりだったよね。
これまで言ったことなかったけど、ボクは、ここに来る前に、ある県の短大の先生だったことがあります。ビジネス経営学というのを教えていました。学生にすごく人気があったんですよ、これでも(笑)。ボクの研究室にはしょっちゅう学生が自由に出入りして、ボクも楽しかった。
でも、いろいろあって、たった1年間で終わってしまった。ボクにとっては納得できない、不本意なことでした。
でも、その時に思ったんです。
「きっと、これからいいことあるぞ!」ってね。
いろんなストレスで、毎晩ビールを飲んで、ポテトチップスばかり食べていたので、激太りして、血圧も随分高くなっていました。あのまま勤めていたら、かなり寿命が縮んでいたでしょう。
東京に帰って、塾の先生になりました。午前中は時間があったので、多摩川の土手を走り始めました。夜中のポテチはやめました。毎日走ったら痩せて、血圧も戻ったんです。
塾の先生はボクに向いていたけれど、生徒は学校の後に来るから、塾の授業は夕方から夜なんです。飲み会に行けるのが夜の11時から(笑)。昼の仕事をしたいなあ、と思っていたら、この世田谷小に声をかけてもらった。2006年でした。最初はお助け程度のつもりでしたが、気がつけばもう10年。
ボクはあの時間違ってなかった。
ほら、悪いことの後に、いいことあったんですよ。今こうして、みんなの前に立っているんだから。
出たばかりのボクの著書に、子どもたち全員がサインしてくれた。世界で一冊のボクの宝物です |
♥悪いことはいいことの始まり
小学生の先生をやると、いいことと悪いことが両方いっぱいあります。例えば牛乳をこぼす子がいる。あ〜あ、こんなにこぼしちゃって。その子の服も、机も床もびちゃびちゃ。やれやれ、だれが片付けるの?
でも、子どもは一度こぼさないと、こぼした後にどうすればいいか、なかなか学ばないよね。そう考えると、牛乳こぼすのも、必ずしも悪いことじゃない。
何かが起きると、すぐに嫌なことばっかり考える人がいます。
君たちの日記を読んでも、うれしいことより、つらいことを書いてくることが多いよね。わかるよ。小学生だっていろいろあるからね。でも、ものごとの悪い面ばっかり見つけていると、つまらない人生になってしまうよ。
悪いことも、見方を変えればいいことになるかもしれない。悪いことがいいことの始まりだとは思えないかな?
君たちもこの2年間、いろんな失敗してきたよね。さっき卒業の会でやらかした人がいるし(笑)、卒業遠足でも横浜駅のホームでやらかした人もいたな(笑)。
当人は忘れたいくらい恥ずかしいことかもしれないけれど、それって実は「おいしい」と思わない? だって、この先もずっとネタにできて、みんなで盛り上がれるんだからさ。
そういう考え方ができる人になると、人生楽しいと思うよ。
今だから言いますが、実はオリンピックエンブレムにクラスで応募してました! なかなかいいデザインだと思うんだけどなあ |
♦減点法より加点法の人生にしよう!
あらためて、今日何かいいことあった?
「思ったより疲れなかった」
何でだろう?
「いすにずっと座ってたから」
うん。いい姿勢だったよ、みんな。
うちのクラスって、みんな体がでかいんだよね。なぜかって言うと、ボクたちのクラスは、2年間給食を一度も残したことがないから。毎日完食がモットーだからね。給食のおねーさんたちが喜んでオマケしてくれても、みんなで協力して必ず食べ切る。そりゃ身長も伸びるよね。
でも、「××しなかったからよかった」っていうのも、実は直してほしい点なんだ。
「怒られなかったからよかった」
「失敗しなかったからよかった」
「疲れることしなかったからよかった」
みんな減点法の考え方だよね。100点が最高で、マイナス点が少なければ少ないほどいいという。でも、ボクは大人だから言うけど、減点法の人生は疲れるよ。加点法でいこう!
かといって、自分に120点、150点と大甘につけるのもちょっとね。要はバランスが大事。
これからみんな中学に進んで、いずれ高校や大学受験がある。受かったとか落ちたとかいろいろあると思う。第一志望校に合格できればうれしいし、そこじゃなければガックリするかもしれないね。
でも、ちょっと考えてほしいのは、世間的に「いい学校」とか「悪い学校」って何なの? ってこと。本当は入ってみなきゃわからない。どんなに評判がよい学校でも、自分に合わないことはあるからね。
この小学校は「いい学校」だと言われることがあります。でも、ボクたちのクラスは、いつもお行儀のいい、先生の言うことを必ず聞く、いわゆる「いい子」の集まりかな? ボクはそう思わない。確実に言えるのは、かなり個性的な子どもの集まりだってことだね(笑)。
人間、悪いところはすぐ目に入るけれど、いいところは意識して見ないと見えないんだよね。ボクは、みんなのいいところ言えって言われたら、すぐにたくさん言えるよ。
つまり、何事にもいいところを見つけてほしいってこと。そのためには、「××しない」という禁止語をなるべく使わないで考えてみよう。「寝坊しないために早く寝よう」じゃなくて、「早起きしたいから早く寝よう」でいいじゃない? 「廊下を走るな」じゃなくて、「廊下は歩こう」でいいじゃない?
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