ぬまっち先生コラム30(1) 最後に言いたいふたつのこと

卒業の会終了後の「最後の授業」で、クラスの子どもたちから花とメッセージカードを贈られる(3月19日、世田谷小で)

沼田 晶弘


第30回(1) 最後に言いたいふたつのこと


 

♣最後の授業を始めます

 では、これから最後の授業を始めます。

 どうだった? さっきの卒業の会は。

 「お話が長かった」

 ふむふむ。

 「意味がよくわかんなくて、つまらなかった」

 あれあれ。

 「特に感動しなかった」

 そう言うと思ったよ。ホントはハイタッチとか、クラスネーム発表とか、うれしいこといっぱいあったと思うけど、言わないよね。でも、顔見たら、みんなが満足してるのはわかるよ。

 うーん、あんまりいい思い出を語る人がいないね。せっかくの卒業の会なのにね。相変わらず素直じゃないなあ。

 さて、何を話そうかいろいろ考えたんですが、みなさんに最後に言いたいことは、ふたつしかありません。

 

♠失業しても「いいことあるぞ!」

 ひとつめ。

 今みんなに、卒業の会どうだった? と聞いた時、ネガティブな答えばっかりだったよね。

 これまで言ったことなかったけど、ボクは、ここに来る前に、ある県の短大の先生だったことがあります。ビジネス経営学というのを教えていました。学生にすごく人気があったんですよ、これでも(笑)。ボクの研究室にはしょっちゅう学生が自由に出入りして、ボクも楽しかった。

 でも、いろいろあって、たった1年間で終わってしまった。ボクにとっては納得できない、不本意なことでした。

 でも、その時に思ったんです。

 「きっと、これからいいことあるぞ!」ってね。

 いろんなストレスで、毎晩ビールを飲んで、ポテトチップスばかり食べていたので、激太りして、血圧も随分高くなっていました。あのまま勤めていたら、かなり寿命が縮んでいたでしょう。

 東京に帰って、塾の先生になりました。午前中は時間があったので、多摩川の土手を走り始めました。夜中のポテチはやめました。毎日走ったら痩せて、血圧も戻ったんです。

 塾の先生はボクに向いていたけれど、生徒は学校の後に来るから、塾の授業は夕方から夜なんです。飲み会に行けるのが夜の11時から(笑)。昼の仕事をしたいなあ、と思っていたら、この世田谷小に声をかけてもらった。2006年でした。最初はお助け程度のつもりでしたが、気がつけばもう10年。

 ボクはあの時間違ってなかった。

 ほら、悪いことの後に、いいことあったんですよ。今こうして、みんなの前に立っているんだから。

  

出たばかりのボクの著書に、子どもたち全員がサインしてくれた。世界で一冊のボクの宝物です

♥悪いことはいいことの始まり

 小学生の先生をやると、いいことと悪いことが両方いっぱいあります。例えば牛乳をこぼす子がいる。あ〜あ、こんなにこぼしちゃって。その子の服も、机も床もびちゃびちゃ。やれやれ、だれが片付けるの?

 でも、子どもは一度こぼさないと、こぼした後にどうすればいいか、なかなか学ばないよね。そう考えると、牛乳こぼすのも、必ずしも悪いことじゃない。

 何かが起きると、すぐに嫌なことばっかり考える人がいます。

 君たちの日記を読んでも、うれしいことより、つらいことを書いてくることが多いよね。わかるよ。小学生だっていろいろあるからね。でも、ものごとの悪い面ばっかり見つけていると、つまらない人生になってしまうよ。

 悪いことも、見方を変えればいいことになるかもしれない。悪いことがいいことの始まりだとは思えないかな?

 君たちもこの2年間、いろんな失敗してきたよね。さっき卒業の会でやらかした人がいるし(笑)、卒業遠足でも横浜駅のホームでやらかした人もいたな(笑)。

 当人は忘れたいくらい恥ずかしいことかもしれないけれど、それって実は「おいしい」と思わない? だって、この先もずっとネタにできて、みんなで盛り上がれるんだからさ。

 そういう考え方ができる人になると、人生楽しいと思うよ。

 

今だから言いますが、実はオリンピックエンブレムにクラスで応募してました! なかなかいいデザインだと思うんだけどなあ

♦減点法より加点法の人生にしよう!

 あらためて、今日何かいいことあった?

 「思ったより疲れなかった」

 何でだろう?

 「いすにずっと座ってたから」

 うん。いい姿勢だったよ、みんな。

 うちのクラスって、みんな体がでかいんだよね。なぜかって言うと、ボクたちのクラスは、2年間給食を一度も残したことがないから。毎日完食がモットーだからね。給食のおねーさんたちが喜んでオマケしてくれても、みんなで協力して必ず食べ切る。そりゃ身長も伸びるよね。

 でも、「××しなかったからよかった」っていうのも、実は直してほしい点なんだ。

 「怒られなかったからよかった」

 「失敗しなかったからよかった」

 「疲れることしなかったからよかった」

 みんな減点法の考え方だよね。100点が最高で、マイナス点が少なければ少ないほどいいという。でも、ボクは大人だから言うけど、減点法の人生は疲れるよ。加点法でいこう!

 かといって、自分に120点、150点と大甘につけるのもちょっとね。要はバランスが大事。

 これからみんな中学に進んで、いずれ高校や大学受験がある。受かったとか落ちたとかいろいろあると思う。第一志望校に合格できればうれしいし、そこじゃなければガックリするかもしれないね。

 でも、ちょっと考えてほしいのは、世間的に「いい学校」とか「悪い学校」って何なの? ってこと。本当は入ってみなきゃわからない。どんなに評判がよい学校でも、自分に合わないことはあるからね。

 この小学校は「いい学校」だと言われることがあります。でも、ボクたちのクラスは、いつもお行儀のいい、先生の言うことを必ず聞く、いわゆる「いい子」の集まりかな? ボクはそう思わない。確実に言えるのは、かなり個性的な子どもの集まりだってことだね(笑)。

 人間、悪いところはすぐ目に入るけれど、いいところは意識して見ないと見えないんだよね。ボクは、みんなのいいところ言えって言われたら、すぐにたくさん言えるよ。

 つまり、何事にもいいところを見つけてほしいってこと。そのためには、「××しない」という禁止語をなるべく使わないで考えてみよう。「寝坊しないために早く寝よう」じゃなくて、「早起きしたいから早く寝よう」でいいじゃない? 「廊下を走るな」じゃなくて、「廊下は歩こう」でいいじゃない?


29<< 記事一覧 >>30-2

 

(2016年5月30日 10:00)
TOP