ぬまっち先生コラム55 実習生がやってきた(1)

教育実習生の「アディダス先生」、算数の授業で奮闘中! でも着ているのはナイキ(9月14日、世田谷小で)

沼田 晶弘


第55回 実習生がやってきた(1)


 

♦秋は教育実習のシーズンです

 世田谷小の9月、10月は教育実習のシーズンです。ボクの母校でもある東京学芸大学教育学部の初等教育教員養成課程にいる、つまり小学校の教員免許を取ろうとする3年生が4人ずつ前期と後期に分かれて、それぞれ3~4週間実習にやってきます。1クラスあたり計8人の実習生を受け入れるため、学校の雰囲気もかなりにぎやかになります。

 タンニンよりは年の近い、フレッシュなお兄さんお姉さんが毎日教室にやってくるので、子どもたちはどこかウキウキしています。しかしボクたち指導教諭にとっては、いろいろな意味でなかなかハードな季節です。

 

♣アディダス先生、奮闘す!

 「前回の授業で大きい数字について学んだけど、今日も引き続きやっていきまーす。この前、『万』って位をやったよね? どういう数だったか覚えてるかな?」

 本日は実習生Sさんの2回目の算数の授業。子どもたちには「アディダス先生」と呼ばれています。ふだんはこんなニックネームの付け方はしないんですが、今回たまたま4人の実習生のうち、偶然にも同姓同名が2人いて紛らわしいので、最初に着ていたTシャツのロゴをそれぞれニックネームにしたのです。しかしS先生はこの日はナイキのシャツで、それをツカミにして笑いを取るあたりはなかなか。

その日の放課後、実習生と協議会。「明日はどんな授業にしようか?」

 「そう、千を10個集めたのが万だよね。じゃあ、万の次の位は知ってるかな?」

 「億!」と子どもたち。

 「その次は? 3年生の範囲じゃないけど」

 「兆!」

 小学3年生でも、億、兆、京、垓くらいまで知っている子がいます。

 「そう、万の次は億だね。一が10個で十、十が10個で千、千が10個で万。じゃあ、万が10個で億だね。......あれれ、先生間違ってるかな?」

 ここでムムっ? と子どもたちの反応が分かれます。先行学習している子は、「万が10個なら十万じゃん、先生何言ってんの?」と思うところですが、みんながそういう子ばかりではありません。初めて大きな数を学ぶ子もいるわけですから。みなさんも実習生になったつもりで考えてみてください。なぜ万と億の間には十万、百万、千万があるのか。なぜ、千と万の間には十千、百千がないのか。不思議だと思いませんか。これを小学3年生にわかりやすく説明できますか?

 「私たちのいる世田谷区の人口は、数字で書くと891748人(当時)です。これを漢数字で書いてみよう。万の次の位が億だから、八億九万千七百四十八人......ええっ、八億人もいるの? おかしくない?」

 これをきっかけに、「なぜ万から位取りのルールが変わるんだろう?」と、S先生は子どもに問いかけます。

 「昔の偉いヒトが決めたから!」

 「万というのが特別な数だったから!」

 S先生は、子どもたちからなかなか活発な意見を引き出しています。

 

♥一生懸命やれば、子どもは応えてくれる

 「半分くらいまではうまくいったと思うんですが、途中から時間がなくて結論を焦っちゃったなあ。子どもの発言にもうまく切り返せなかったし......」

 授業の後、S先生はがっくりと反省の弁。実習期間は放課後に毎日、クラスごとに「協議会」を開きます。4人の実習生同士でその日の振り返りをするとともに、翌日の指導案(授業プラン)をみんなで協力して練っていくのです。これに数時間かかることもあります。

 「でも1回目に比べていろんな向上があったよ。子どもの顔がよく見えていたし、うまく切り返せなかった自分も認識できているし。最後は全部教えようとあせって急いじゃったけど、実習としては十分よく頑張ったと思うよ」とボク。

 S先生はホッとして、ようやく笑顔を見せてくれました。

 

 ボクは実習生たちの議論に加わりながら指導する役ですが、細かくああしろこうしろとは言いません。厳しい指導を期待している人にとってはやや拍子抜けかもしれません。でもボクは、実習生のみんなが頭をひねって授業を工夫する姿を見ているのが好きです。ボクがいろいろ言うと、その通りになっちゃう。自分たちでいろいろ考えてみて、思い切りやってほしいんです。

 いま、小学校の先生を志している人たちにひとつ伝えたいのは、実習生が一生懸命やれば、子どもは必ず応えてくれるということです。とくに女性の先生だと男子が張り切りますよ(笑)。教育実習とは、実習生が子どもに勉強を教えてあげる場でなく、子どもたちと一緒に考え、子どもたちと一緒に学ぶ場だと思うんです。

 


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(2016年11月21日 10:00)
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