ぬまっち先生コラム56 実習生がやってきた(2)

放課後、教育実習生たちと。「こんなことやったら面白いんじゃないかな?」(9月14日、世田谷小で)

沼田 晶弘


第56回 実習生がやってきた(2)


 

♦大学で学んだとおりにやってるのに......

 ボクが最近の実習生に対して持つ印象は、まず「まじめだなあ」ということです。大学の授業で「学校ではこういう風に教えるものだ」と習ってきて、実習でもその通りにやろうとします。でも、相手は生身の子どもたちですから、習ったことをそのままやっても通じないことが多い。大学ではもちろん、教育の大事な基本を教えていると思いますが、現場に立つと、多かれ少なかれ「アレンジ」が必要であることは、プロの先生にはわかっていただけると思います。

 まじめな学生ほど、思い通りにいかないので、実際の教壇では悩むことになります。なんで? 教わった通りにやってるのに! そんな時に気持ちを切り替えて、子ども目線でどう柔軟に対応できるかが大事です。

 

 実習生が何年生のどこのクラスに配当されるかは、その時にならないとわかりません。世田谷小は18クラスあるので、ボクのクラスに来る確率は18分の1です。真っ赤なポロを着て、髪をツンツン立てた指導教諭に(毎年、実習生には決まって「初めて会った時はコワかった」と言われます)、「教科書通りの例を使わなくていいからね。それより子どもと一緒に楽しめることを探して!」といきなり無茶なことを言われるんですから、学生はさらにショックを受けます(笑)。大学で勉強したことをちゃんとしゃべれば教育はうまくいくと思ってたのに、それとは別な方法で、なぜか教育を成立させているヘンな先生がここにいる!

 それを面白がってハマってくれればしめたものです。ボクとの実習期間が終わった時、学生が将来の選択肢から「先生」の二文字を消さなければいいなといつも思っています。

 

♣なぜかハズした「鉄板ネタ」

 ボクは実習生の自由な発想をつぶしたくないので、授業プランにあまり細かく口出ししませんが、子どもに受けそうな小ワザはこっそり仕込みます。例えば前回の算数の「大きな数」で、ボクが「ヨネックス」を着ていたO先生に授けたのはこんなツカミです(左)。

 お分かりですよね。この質問だけでは「数の大きさ」なのか「サイズの大きさ」なのかが分からないから、どっちも正解、どっちも間違い。これで笑いを取った後、「今日のテーマは数の大きさの方」と自然にわかってもらうはずだったんですが......。

 O先生が授業の最初にこのネタをやっても、なぜか子どもたちはそこまで乗ってこない。えっ、これが受けないの? 見ていたボクの方が焦ってしまいました。鉄板のはずなのに。前日にあれほど練習したのに!(笑)

 

♥ゲームだって作っちゃいます

算数カードゲーム開発中!

 ある日の協議会では、愛称「チャンピオン」のI先生(前回説明した同姓同名事件があったので、結局4人全員にスポーツブランドのニックネームがつきました。もう1人のS先生は「フィラ先生」)と創作カードゲームの研究開発をしました。これも算数の授業で、万の位の足し算を子どもに楽しくやってもらうためです。ボクはこういうゲームを作るのが大好きだし、得意なんです。

 「トランプを利用しよう。その中で10枚だけ使うことにして、2人対戦で3枚引き合うのはどうだろう。その数を合計する」とボク。

 「どうやって万の位にするんですか?」とI先生。

 「数字を100倍するとか、1000倍するとか」

 「1から10だと計算が簡単すぎるから、4から13(キング)の10枚がいいかもしれませんね」

 「なるべくルールを簡単にして、でも勝負でドキドキできるようにしたいね」

 ボクもI先生もかなり真剣に考えました。その結果、とりあえず完成したゲームは次の通りです。

★ぬまっち×チャンピオン特製 足し算カードゲーム

【用意するもの】

 トランプのカード 4~13(キング)まで10枚

 付せん3枚×2組。10倍+(プラス)、100倍+、100倍-(マイナス)と書いたものを2つずつ

【ルール(2人対戦)】

 (1)プレイヤーは3枚の付せんを1組ずつ受け取る

 (2)10枚をよく混ぜて裏にして山札にする

 (3)先攻後攻を決め、交互に1枚ずつ引いてオープンする

 (4)カードを引いたら、3枚の付せんのどれかを1枚選んで貼る

 (5)カードの数字は常に10倍する。例えば4なら40。これに付せんの効果を加えて、10倍+なら400、100倍+なら4000と数える。100倍-は-4000だが、3年生はマイナス計算を習っていないので、+の合計と-を比べて-の方が大きかったら全部0点とする

 (6)お互い3枚ずつ引き終えたら、すべての数を足し算して多いほうが勝ち。両方0点になったら引き分け

 教材研究ではトランプを使いましたが、いちいち10倍すると子どもが混乱するので、実際の授業では画用紙を切って40~130と書いたカードを自作しました。何度かやってみると、ギャンブル要素も適当にあっていい感じです。100倍+の使いどころがカギですね。

 

♥教科書通りにやってもOK。でも......

 えっ、何を遊んでいるのかって?

 いやいや、これは説明したように「算数の教材作り」なんです。大人が楽しいと思えないで、子どもを楽しませることはできませんから!

 遊んでいるどころか、ボクは実習生に険しい道を歩ませています。だって、教科書に出ている例をそのまま使って授業をやるのが一番スタンダードですから。もし実習生がそうしたいと言っても、ボクはNOとは言いません。でも、どうせやるなら面白い方がいいじゃないですか?

 

♣さあ、これからルパンタイム!

 翌日の算数の授業では、子どもたちはこのゲームに夢中になりました。遊びながら、知らず知らずに万の単位の足し算だけでなく、数の10倍、100倍についても学ぶことができたので、してやったりです。I先生もボクも苦労した甲斐があったというものです。

 もし、このゲームに興味を持って、自分の教室でもやってみたい先生がいたら、どうぞ遠慮なく「いただいて」ください。そう、このコラムはいつでも「ルパンタ~イム」中! どんどんいただいて、使ってみたもの勝ちです(笑)。もし「授業でやってみたぞ」「ここはもっとこうした方がいい」という先生がいたら、ぜひボクにお知らせくださいね!


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(2016年11月28日 10:00)
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