田中センセイの徒然日誌[57]「オアシスサ」で伝わること

[57]「オアシスサ」で伝わること

 

 わたしか所属していた学校では「オアシスサ」という日常のあいさつや言葉がけを促す運動を行っていた。「オはよう」「アりがとう」「シつれいします」「スみません」「サようなら」の頭文字をとったものだ。

 ところが、朝、職員室にムスッと一言も発しないで入って来たり、黙って帰ったり、手伝ってもらっても感謝の言葉がない。そんな教師も時々見られた。

 

 「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」

 山本五十六の言葉を引くまでもなく、教師がまず手本を行動で示さなければ、子どもには伝わらないものだ。逆に、あいさつなどいらないんだと思ってしまうかもしれない。

 

 授業研究をして学習内容をよりよく伝えることが教師の仕事ではあるが、実は教師の言動や存在自体が子どもたちにとっては学びになる。ファッション、言葉遣いや表情、そしてあいさつなどの日常習慣。なにげない日々のすべてがその対象だ。

 

 「ヒドゥンカリキュラム」と言われ、学校のフォーマルなカリキュラムの中にはないものが、意図しないままに教師や仲間の生徒たちから伝わっていく。だからといって年中緊張していなければいけないというわけでもない。せめて、自分が相手に「あいさつをしなさい」と求めるなら、自分はしっかりと行動で示さなければいけないだろう。

 

 改正道路交通法の施行により、2023年4月1日から自転車利用者のヘルメット着用が努力義務化された。それに伴い警視庁では、交番勤務の警察官らが装着を始めた(2023年3月26日読売新聞都民版「ヘルメット 警察が模範に」自転車 努力義務化へ)。率先して行動する姿を見せることで、自然と着用が進むことだろう。

 

 「ヒドゥンカリキュラム」は、社会でも生かせる。国民に何かを求める時は、求める人がまず行動で示してほしいものだ。その姿を見て多くの人が学ぶことができる。

 

 でも、悪い行動ばかり示されるとそれも学んでしまうから気をつけないといけないが。

 

 

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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー

1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。

 

(2023年5月25日 09:14)
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