田中センセイの徒然日誌[56]目的のない行動なんて

[56]目的のない行動なんて

 

 以前、善光寺にお参りしたときに見た「びんずる尊者」像が盗難にあったことにびっくりした(2023年4月6日読売新聞朝刊)。そして、思った。なぜ容疑者はこの像を盗もうと思ったのだろう。

 

 「身内に動けない病人がいて治したい」

 「新しい宗教を起こし、商売にする」

 「好きが高じて、いつも一緒にいたい」

 「仏さまをコレクションしている」

 

 実際には、像になんらかの恨みを抱いていてどこかに埋めてやろうと思ったという趣旨の供述をしているようだが、はっきりしない。確たる目的なしにとにかく行動してみたのかもしれない。

 

 GIGAスクールが前倒しで始まれば、目的もなくただ機器を操作する授業。情報教育が大切だと科目「情報」をとにかく取り入れる、教える教員も確保されていないのに。部活の在り方については今まで黙認していたのに教員の働き方改革が叫ばれると地域移行が焦点になる、などなど。教育の世界もこの犯人と似たような動きをしている気がする。

 

 教育の確たる目的は、児童生徒が主体的に学び続ける人に育つことだ。目的を果たすためには、遅々として進まぬ方法や環境に頼らずに、今、目の前にいる子どもたちに、知恵を絞ってものごとに取り組む大人の姿を見せることしかできないのではないか。

 

 「びんずる尊者」の頭に触れ、大人全員が知恵を得られますように。

 

 

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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー

1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。

 

(2023年4月27日 16:58)
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