田中センセイの徒然日誌[63]チョウが舞う未来を

[63]チョウが舞う未来を

 

 イノシシ、シカと来てチョウなら、ゲームでは笑顔になるところだが、現実ではクマが出てきた。それも、たくさん(2023年11月16日読売新聞朝刊「クマ被害 200人迫る 冬眠前、餌求めさらに活発」)。以前から問題になっているイノシシ、シカによる農作物被害に加えて、今年はクマによる死傷者が最悪ペースで増えている。

 

 4年生以上になると、小学校では1泊から3泊ぐらいの宿泊学習がある。で、ほとんどの子どもたちは、初めて保護者から離れて集団行動、宿泊を体験する。こうした宿泊行事や遠足など校外での活動の時、教員は実踏をする。子どもたちの行く場所にあらかじめ出向いて下見をすることで、東京の教育関係者の間で使われている業界用語だ。

 

 わたしの勤めた地域では、施設を持っていたこともあり栃木県・日光に行くことが多かった。 その実踏の時、子どもたちが見学する古い民家の建物の管理人の方からクマの話を聞いたことがあった。「いやー、こんな街に近い場所にもクマは出るんだよ。観光客が少なくなった時間帯に、裏口からこっそりやって来るんだ。ごそごそやった跡が残っているんだよ」。仕方ないよねといった感じでニコニコ話してくれた。20年前ぐらいのことだ。

 

 今年は、ニコニコとはいかないだろう。クマの行動範囲は広がって、死者も出ている。専門家は、その理由を様々に分析し、人的被害が出ないような取り組みが行われている。これ以上被害が拡大しないことを願うばかりだ。

 

 災害や災厄にいつ見舞われるかわからない今、甲南学園創始者である平生釟三郎さんの「常二備へヨ~天の災いを試練と受け止め常に備えて悠久の自然と共に生き輝ける未来を開いていこう」という言葉を、子どもたちに伝えたいものだ。

 チョウが舞う未来をみんなが描けますように。

 

 

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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー

1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。

 

(2023年12月 8日 06:23)
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