[64]憧れられる人
「憧れるのをやめましょう」 ワールド・ベースボール・クラシックの決勝、米国戦試合前の大谷翔平選手の言葉が、2023年の新語・流行語大賞の候補になった(2023年12月2日読売新聞朝刊)。 この言葉に鼓舞されたのか、日本の選手たちはスター選手のそろった米国チームに気後れすることなく、自分たちの持ち味を十二分に発揮し、優勝した。ドラマのような試合展開。手に汗を握ってテレビ画面にくぎ付けになってしまったのはわたしだけではないだろう。
年が明けると、学校は年度が変わる前の3か月を迎える。進学・新学年に向けての準備期間だ。その時期、卒業をする6年生を送る会が、1年から5年生によって開かれる。下級生が工夫して心のこもった出し物は、最上級生の6年生の心に刺さるようで、普段感情をあまり示さない子も、やんちゃな子も、笑みを浮かべ幸せそうな顔を見せてくれた。下級生の6年生への憧れの気持ちが伝わっていると、わたしは、その温かな会を見ていつも思った。
「6年生のみなさん、君たちは、在校生の憧れでした。5年生のみなさん、今度は君たちが下級生の憧れになってください。そして、6年生のみなさんは中学校で新しい憧れを始めましょう」 会の最後にわたしがいつも言った言葉だ。 学校は憧れるものであふれる場所であってほしい。新しく知ることに驚き、憧れ、学んでいけるように。
他人との出会いに驚き、憧れ、近づき、学び、成長することができる人は、憧れられる人でもある。大谷選手の言葉から学んだ気がする。 そんな憧れられる人こそが、多くの人から支持されるのだろうな......。
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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー
1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。