田中センセイの徒然日誌[62]センサーに頼り切ると...

[62]センサーに頼り切ると...

 

 いろいろな先生と出会ってきた。ある年配の先生の教室に補教で入った時、休み時間に子どもたちが靴を片方脱いで探し回っていた。「靴かくし」というゲームだそうだ。詳しいルールはわからないが、「先生が教えてくれたんだよ」と、クラス中楽しく盛り上がっていた。最近では、友達に意地悪する時に靴を隠すこともあるが、あの時代のあの先生のおおらかさは、子どもたちとの信頼関係の賜物だったのかなと懐かしく思い出した。

 

 そんな中「置き去り防止 靴にセンサー」(2023年7月8日読売新聞朝刊)という記事を見つけた。園児が送迎バスの中に置き去りにされた事件を受けて、子どもたちの靴にセンサーをつけて位置情報を確認するという。悲しい事件を繰り返さないために、様々な対策が練られている。

 

 ところで、今年の夏は災害級の暑さが続き、エアコンなしではいられなかった。最新のエアコンは、温度センサーの働きで、室内温度と設定温度が一致するように運転されているという。一方、スマートフォンのタッチパネルには指の接触や動きを検知するセンサー、カメラには光を検知して画像化するセンサーが搭載されているなど、世の中では様々なセンサーが働いている。

 センサー技術の発達は、わたしたちの生活を便利にしてくれている。そのうち、人間の五感に代わってあらゆることが可能になるかもしれない。ただその技術に頼り切った時、わたしたち人間の五感はどうなるのだろう。

 

 少なくとも、「靴かくし」ゲームの時にセンサー付きの靴は使わない方がよいだろう。楽しんで探し回るというセンサーでは測れない「喜び」がなくなってしまうだろうから。

 

 

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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー

1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。

 

(2023年11月 1日 09:26)
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