田中センセイの徒然日誌[61]偽物から本物へ

[61]偽物から本物へ

 

 コロナワクチンの開発やアルツハイマー病の新薬レカネマブなど薬の開発に関するニュースが多く流されている。薬を開発する過程でその効果を患者グループで確認する際に使われるのが、プラセボ(偽薬)だ。ところが、このプラセボ自体が薬のように作用して、治療効果が表れるという現象があるそうだ。プラセボ効果と言われている。最近では医師が偽薬と患者らに知らせたうえで渡す「オープン・ラベル・プラセボ」なる活用もあると記事にあった(2023年7月8日読売新聞朝刊New門)。

 

 「ピカソの絵画は傑作である」と言われつづけると、そうなんだろうと思う。

 「源氏物語は日本古典文学の金字塔だ」と断言されると、そうなんだと信じる。

 教えるということは、その時代の価値観や思想を植え付けてしまう点では、ある意味プラセボ効果といえないこともない。本当にそのもの自体の魅力からでなく、信じ込ませることで知識として身につけさせるという意味で。

 一方、知識は継承され広がることで、新しい知識を生み出している。プラセボ効果でない新薬が現れるように。これからは、子どもたちが自ら新たな価値観や思想について考えることが必要なのだろうと最近思っている。

 

 膨大な知識をそのまま受け入れるだけでなく、自ら新しい知識を作り出していけるような教育。そのためにはひとつひとつの事柄を自分なりに深く考え、周りの人たちとの話し合いを通じて価値観や思想を身につけることができる子どもたちが育たなければならない。

 そんなことを願いつつ、好きな俳優がおいしいと宣伝しているビールに手を伸ばして、本当かどうかよく味わいもせずに「おいしい」と言っている自分をなかなか変えられないなあと反省するばかりだ。

 

 

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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー

1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。

 

(2023年10月13日 14:06)
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