ぬまっち先生コラム7 100輪の花(4)

殿堂入りのパネルも花もクラスメートが心を込めて作る。「花はふわっとさせるのがコツなんですよ~」(世田谷小で)

沼田 晶弘


第7回 100輪の花(4)


 

♣場所が子どもたちを育てる

 実は、「帝国ホテル」が目標になる前は、ディズニーランドという案も子どもたちから出されました。しかし、ボクが却下した。

 なぜって?他の学校でもありそうな感じがするからです 。 実際、ボク自身が中学校の卒業旅行でディズニーランドに行っています。

 ボクは、あの子たちが一生の思い出に残るようなことを体験させてあげたかった。大人になっても「あの時は......」と懐かしく振り返るような、「究極の非日常」でなければならないと思いました。

 小学生の集団が、 リムジンで帝国ホテルに乗り付けて、豪華レストランでランチに舌鼓を打つところを思い描いてください。周囲の紳士淑女は、「いったいどこの学校だ」とびっくりするでしょう。

 もちろん、マナーは事前にしっかり教えます。いつか書くことがあるかもしれませんが、ボクは2年前 、担任するクラスの6年生を別のホテルランチに連れて行ったことがあり、その時はホテル側が子どもたちの行儀のよさに驚いていました。「場所」が子どもたちを育て 、学びとなる 。ボクはそう思っています 。騒いで周囲に迷惑をかけることなど、うちのクラスに限ってあり得ない。その振る舞いとともに、きっと伝説になることでしょう。

 

♥成績と関係なし。でも勝手に上がっていく

 授業時間をプロジェクトに当てることもあります。「オフィシャルプロジェクトタイム」と呼んでいるんですが、週に2時限くらい。しかし到底時間が足りないので、子どもたちは休み時間にも自分のプロジェクトをやっています。

 プロジェクトそれ自体は、成績と関係ありません。いくつ花をゲットしようと、多額の賞金を稼ごうと。 プロジェクトをやってタンニンの点数を稼ごうなんて、そもそも子どもたちは思っていません。自分たちで楽しいからやってるだけです。

 しかし、ここがポイントですが、プロジェクトを熱心にやる子は、勝手に成績が上がっていきます。彼らが探してくるコンテストは、当然小学生対象のものなので、多かれ少なかれ教育的要素が入っています。作文を書いたり、デザインを描いたり、アイデアプランを立てたり。そのために全力で頭を絞るのだから、ふつうに勉強しているのと同じか、それ以上でしょう。彼らもそれに気づき始めていると思います。

 ついでに言うと、学習指導要領では「グループ・ディスカッション」を重視していますが、この教室ではあえて授業でやる必要がない。プロジェクトこそが、ディスカッションしながら目標に向かっていく作業に他ならないからです。

 

♠「勝手にプロジェクト」もまた良し

 ただ、最近はボクの知らないところで勝手にプロジェクトが立ち上がっているのが、ちょっと困りものです。一応、ボクが紙に書いて貼るのがルールだったのに、いささかユルユルになっている。

 この間も、聞いたことのないプロジェクトがあったので、メンバーの子どもに尋ねたら、「この前提案して2人以上いたから成立したんだよ」「そうか。でも何でボクが知らないんだろ?」「ぬまっち会議でいなかったから」「......そ、そう」

 しかしです。ボクは結構うれしかったりする。だって、タンニンが知らないところでプロジェクトが勝手に立ち上がり、勝手に達成されるというのが、プロジェクト制の神髄であり、ボクの理想でもあるからです。だから、口では困ったふりをしながら、内心「よしよし」とも思ってる。子どもたちは、ボクのそんな「本音」を知ってるのかもしれませんね。

 目下、ボクたちが「今年最大の勝負」と呼んでいるプロジェクトが進行中です。あえてここでは書きません。ステージがでかいし、競争倍率がすごいし、賞金も多いし、まあ普通は無理だなと思うところですが......。

 この子たちなら、案外あっさり取ってしまうかもしれない。 根拠はないけれど、そんなドキドキ・ワクワク感があるんです。「おい、本当に取れちゃったらどうしよう?」「みんなで帝国ホテルに一泊しちゃおっか。余裕だよね!」なんて、子どもたちと真剣に話しています。

 それも当然ですよね。ここは世界一のクラスですから!


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沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。

 

(2015年12月21日 10:00)
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