ぬまっち先生コラム8 みんながティーチャー(1)

子どもが先生となって授業をする「織田信長ティーチャー」プロジェクト。チームがリレー形式でクラスメートに講義する(10月9日、世田谷小で)

沼田 晶弘


第8回 みんながティーチャー(1)


 

♣子どもが先生、タンニンは生徒

 10月9日、ボクたちのクラスでプロジェクト「ONT」が決行されました。

 このコラムを読んでくれている人は、そろそろ3文字略語に慣れたころでしょうか?ONT=「織田信長ティーチャー」です。

 ボクたちのクラスには、「歴史ティーチャー系」という一連のプロジェクトがあります。プロジェクトなので、子どもが発案し、仲間を募り、実行します。ティーチャー系プロジェクトとは、「ボクの代わりに、子どもたちが先生になって授業をする」プロジェクトなんです。ボクはその時どこにいるかというと、子どもたちと一緒に机に座って、同じようにせっせとノートを取っています。

 何しろ、ボクも初めて聞く授業だからです!

 

♥ギャラリーの多い日にやりたい!

 ONTは、織田信長の49年の生涯と業績を一気に語りつくそうというプロジェクトです。実はこの日は見学ゲストの多い日で、いろいろなメディアから20人くらいのお客様が参観に来ることになっていました。出版社や新聞社の人が多く、カメラマンも3人ほどいて、ばしばしシャッターを切っている。普通ならかなり緊張する場面のはずですが、「ナニコレ珍百景」や「みんなのニュース」でテレビ取材を2回経験したことで、カメラにもすっかり慣れた子どもたちは、いつも通り平然としています。というか、「この参観の日に織田信長授業をぶつけたい」と言い出したのは、子どもたちの方なんです。

 彼らの気合をビンビン感じました。ボクが大の信長ファンで、本当は自分で授業したいくらいなのを知っているからです。そんなボクに、まずい授業を聞かせるわけにはいかないと、この子たちも覚悟を決めている。だから、あえてギャラリーの多い日にやりたい!頼もしい子たちだと思いませんか?

 

♠2時限分ぶっ通しの「白熱授業」

 あの織田信長の出生から「本能寺の変」までを扱うので、長くなりそうだとは予想していました。結果的に、2時限分ぶっ通しの超ロング授業となりました。ONTのメンバーはカンニングペーパーなんか見ません。しゃべることを全部頭に入れて、パワーポイントをふんだんに使って講義します。もちろん子どもたちが自分で作ったのです。最後は給食の時間ギリギリでしたが、無事やり抜きました。

 歴史ティーチャー授業では、受ける方も黙って聞いていません。ボク仕込みの「MC型授業」というやつですが、座ったままどんどん質問やツッコミが入ります。ボクも当然、遠慮なく質問します。いくつかハイライトをプレイバックしてみます。

 

ONT 1560年、今川義元と信長が戦いました。この戦いを桶狭間の戦いといって、結果的に信長が勝ちます。しかしここで疑問が出てきます!今川軍の兵は2万5000、対する信長の兵は3000。ではなぜ信長は勝ったのでしょうか?それは奇襲攻撃によるものでした。不意を突かれた義元は逃げられず殺されてしまったのです!

 

ボク でも、2万5000人と3000人でしょう?1人に対して8人。これは奇襲したって勝てないよ。どうして信長は勝てたの? なぜ桶狭間だったの?

 

ONT 桶狭間っていうのはV字谷みたいになってて、今川軍は逃げにくいところで休憩してたんです。さらに信長軍は総大将の義元だけを狙ったんです。

 

ボク そう、桶狭間はV字谷みたいに細い地形だったから、2万5000人がながーい縦の列になっちゃったんだよね。そして、信長は地元のスパイを使って、義元の居場所を探らせた。アリの行列を横から指で弾くみたいに、そこをピンポイントで襲ったから3000人でも勝てた。そういうことなんだ。

 

 ボクは信長ファンなので、ちゃんと桶狭間に行って現地の地形を確認してるんです。古戦場は今は普通の国道でしたけどね。

 

ONT 1571年、姉川の戦いで負けた浅井・朝倉連合軍は比叡山延暦寺に逃げ込みます。それに怒った信長は、寺に火を放って4000人以上を焼き殺してしまいます。浅井と朝倉軍は逃げちゃったから、無差別に殺されたのはお坊さんや女の人、子どもたちでした。

 

子どもたち 悪魔だ......。

 

ONT 延暦寺のお坊さんは、信長がそんなに怖いなんて知らなかった。「やるんならやってみろ」って感じだったんだと思う。ほら、友だち同士のけんかなら「殴るぞ」って言われても「殴れば?」って強気で言い返すと普通やめるじゃん。お坊さんもそう思ったんだろうけど、信長はジャイアンみたいで、のび太が「殴ってみろ」と言ったら本当に殴っちゃったみたいな。

 

子どもたち でも、殺しちゃうなんて......。

 

ONT 信長は神も仏も恐れなかった。自分だけをすんごい愛してたの。アイラブアイ。

 

ボク はい、ちょっとだけ言わせて!延暦寺のお坊さんたちは、修行中なのに禁止されているお酒を飲んだり、女の人を連れ込んだり、信徒にバレないようにこっそりパラダイスを作っていたそうです。信長はそれにも怒ったんじゃないかな。

 

 焼き討ちは事実で動かせないんだけど、信長ファンとして、そこだけは肩を持ちたくて、思わず発言してしまいました。最近ボクは「ひな壇型教師」になってるような気がします。

 

♦ノートチェックして疑問に答えるのも子ども

 2時間の授業を終えてヘトヘトになっても、ONTのメンバーにはまだ大事な仕事が残っています。授業を聞いていた子たちのノートをぜんぶ回収して、クラスメートの疑問にひとつひとつペンで答えるという「アフター授業ケア」です。

 授業ノートを取る時、その場で解消できなかった疑問点はノートに「青字」で書き込むのがボクたちのクラスのルール。子どもティーチャーたちは全員のノートを読み、青字に対する答えを書き込んで戻します。

 え、子どもが他の子のノートチェックまでするの?と思った方、固定観念を取っ払ってください。当然です、彼らは「先生」なんだから。ボクの青字にも、彼らはきちんと答えてくれています。

 それにしても、ボクはこの日、授業ノートを8ページも取りました。こんな分量、高校生の時の中間テストでも書かなかったのに!


7<< 記事一覧 >>9

 

沼田先生略歴

ぬまた・あきひろ 1975年東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、米インディアナ州ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学修了。2006年より東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。現在は6年生担任。生活科教科書(学校図書)著者。企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。

 

(2015年12月28日 10:00)
TOP