[78]授業のHOW TO
教員免許を持たない社会人に「特別免許状」を与えて、小中高校の教員に登用する例が増えているという。読売新聞の3月29日付夕刊社会面「先生は元ビジネスマン 特別免許 授与増」という記事に、そうあった。 ビジネスの現場で培った英語やプログラミングなどの専門知識を学校教育に役立ててもらおうという狙いだが、教員登用後の支援体制が課題らしい。「どう教えるか、どう授業を進めるかも分からず、初回はボロボロだった」というエンジニア出身の技術教諭の体験談が紹介されていた。
「授業のHOW TOはありませんか?」 そんな質問を後輩教諭から受けて、私は答えに悩んだ経験がある。指導案といわれる授業の台本のようなものの書き方を指南する本ならば、存在する。「導入・展開・まとめ」が基本だとされる。しかし、現実はもちろん、本に書いてある通りになんて運ばない。従って「HOW TOはありません」が正直な回答となる。 だが、それではこれから授業をしようという人に対して、不親切過ぎるだろう。そこで、自分がどうやって授業方法を学んだのかを振り返ってみたい。思い当たることが二つある。
一つは中学時代から熱心に聞いた古典落語だ。三遊亭円楽、古今亭志ん朝、立川談志、柳家小さん。今はなき名人たちがトリで出演していた頃、私は東京・新宿の紀伊国屋寄席に通った。興味を持った話芸にのめり込んだ経験は、さまざまな形で授業に役立った。
もう一つは「『わかる』ってどういうことだ?」と悩み続けていることだ。新聞や本を読むとき、あちこちを歩き回っているとき、そして教室で子どもたちと向き合うとき──。私はずっと「何だかよく分からないなあ」と考え続けてきた。物事を考えること自体の面白さを、自身の知識に絡めて伝えていく。それが、私なりの授業方法になった気がする。
答えになっているだろうか。う~ん、伝わりきらないだろうな......。 それにしても、何でもかんでもHOW TOを教えてほしがるのは、いかがなものかとも思ってしまう。自分なりのHOW TOを考え、探し出してほしいものだ。
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田中孝宏 読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー
1960年千葉県船橋市生まれ。元小学校長。「ブラタモリ」にならって「ぶらタナカ」を続けている。職場の仲間や友人を誘って東京近郊の歴史ある地域を歩く。「人々はなぜ、この場所に住むようになったのだろう」と考えると、興味は尽きない。