ぬまっち先生コラム91 セルフラーニング(6)

恒例の「藤の実フェスタ」で、KTKT(勝手に東京観光大使)の研究成果を発表する4年3組の子どもたち。保護者相手に堂々とプレゼンしています(10月28日、世田谷小で)

沼田 晶弘


<<第90回 セルフラーニング(5)


 ボクがアメリカの大学に留学していた時、最初しばらくは「アキは日本人なのに、英語がうまくなってきたね」と言われました。それが3年くらい経つと、「アキって日本語うまいよね」と言われるようになりました。

 実はボクは、留学当初は英語が全然でした。マークという日本語ができるアメリカ人の友人がいて、いつも助けてもらっていました。マークとは日本語で話せるからです。だけど、英語が上達すると、マークとの会話はいつの間にか英語になった。その時、「人間は、二人の語学力を足し算して、大きい方の言葉で話すんだなあ」と思ったんです。

 もう一つわかったのは、「ここでは英語ができて当たり前で、その上で日本語ができるとプラス評価になるんだな」ということ。つまり、ボクの英語は最初はマイナス評価だったけれど、ある程度上達したので、今度は日本語ができることでプラス評価に転じたということでしょう。

 日本では「英語ができると武器になる」とよく言われますが、アメリカに住んじゃったら、「英語がちゃんとできる上で、日本語ができると武器になる」が正しいんです。ただ、これからは英語ができる人のアドバンテージは減っていくのかもしれません。AI翻訳もかなりのレベルになってきていますし。

 

■「よく調べたね」だけでは通用しない


 学校で、歴史上の偉人について調べたことをノートにびっしり書いて、「この人はすごいと思いました」と書けば、まず褒められるでしょう。「よく調べたね」と。

 しかし、図書館にこもらなければ調べられなかったころと違い、今やインターネットがあります。「調べること」についてのハードルが大きく下がっている。スマホに話しかければ音声で答えてくれるような時代です。

 昔は旅行家は尊敬されました。誰も知らない土地を旅して、珍しい見聞をたくさんしてきた人は、生きた情報の宝庫として、どこの村でも歓迎されたと思います。しかし今は、ストリートビューで、行ったことのない国の街角を簡単に見ることができてしまう。情報がたやすく、居ながらにして手に入れられるようになった分、何でも知っていることの価値が下がったことは否定できないと思います。

 誤解しないでほしいのですが、ボクは知識が不要だと言っているのではありません。人生は、知っていることが多い方が有利なのに間違いはありません。しかし、知識を得るための労力のハードルは、ネットの発達でかなり下がってきています。そんな時代に、「たくさん知っているからすごい」「よく調べたからえらい」は、もう通用しないのではないかと思うのです。

 

■問題は「知識をどう生かすか」


 だから、ボクは子どもたちに言います。「調べるだけならキミに聞く必要はない。ネットで検索すればいいだけだから」。その代わり、ボクが聞きたいのはキミの意見。調べたことに、キミの意見を足すことで、初めて何か新しいことが生まれるのだと。

 誰でも簡単にリサーチできる時代においては、リサーチしただけではプラス点になりません。その知識を「どう活かすのか」を、学校はこれから教えていかなくてはならないと思っています。

 え、小学生はまだパソコンができないだろうって? そんなことありませんよ。大人が触らせたがらないだけじゃないですか? 前にも紹介しましたが、ボクの教室にはパソコンが何台か置いてあって、休み時間にタイピングゲームだけは許しています。その結果何が起こったかというと、あるお父さんに言われました。「最初は昔のオジサンみたいに1本指でキーを打っていたのに、最近は両手でカタカタですよ。子どもはあっという間に覚えるんですね、ありがたいです!」

 もっとも、子どもたちが社会に出るころには、キーボードが消滅している可能性もないではないのですが(笑)。

廊下に子どもたちの「夏の自由研究」を展示。「やる気の研究」「わが家のたまご焼き対決」「開脚にチャレンジ」「消しゴムで一番キレイに消す方法」などなど、ちゃんと仮説を立てて考察。これぞSLの成果!

 

あ、そうそう、兵庫県の若い教員の方から、

 

 ぬまっち先生は宿題をどのように出していますか? 自主学習などはしているのでしょうか? 子どもたちが勉強したくなるような仕掛けを教えてください。

 

というご質問を受けていますが、ここまでの話でだいたい答えになっているんじゃないかと思います。これで質問コーナーは終了しますが、たくさんのご質問、ありがとうございました!


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(2017年11月 6日 10:00)
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