WS編集部より(10)学校のミッション

「読売ワークシート通信」のメールマガジンから、記者コラムの一部を紹介します。

 

学校のミッション


2020年11月18日

 

 40歳を過ぎた頃、好きだったゴルフをやめて、テニスにくら替えしました。自宅から自転車で10分ほどの場所にある、町のインドアのテニススクールに週一度、90分間、23年も通っています。

 

 でも、「四十の手習い」ということもあって、あまり、うまくなりません。レベルは5段階中、真ん中の3のままです。そんな私や私と同程度のレベルのおじさんたちに、若いコーチほど、どうにか、少しはうまくしてやろうと、いろんなことを教え込みます。

 

 「流行のステップはこうです」「もっと、重心を落としてレシーブしましょう。ジョコビッチのように」──様々なアドバイスを受けても、どちらかというと、こちらは技術向上より、健康促進のために来ているので、助言もそっちのけ。真夏にはコートの隅にある冷風が出てくる管の下におじさんたちが集まり、金魚のように口をパクパクさせています。

 

 そんな私ですが、さすがに四半世紀近くも続けていて、多くの練習やゲームをやっていると、不思議なことですが、「ああ、もう少し、うまくなろうかな」と、思うようにもなってきます。なので、見様見まねや、生徒数が少ない時を狙って、少し特訓をしてもらって、今風の、ラケットを立てて構えるレシーブのフォームを身につけ、スピンがきいた球も打てるように、だんだんとなってきました。

 

 本格的に人にものを教えたことがない私には教える側の論理はよく分かりませんが、少なくとも教わる側の論理としては、何か学ぼうとするのは、自分に差し迫った必要性があるか、自分がその気になるかがすべてで、例えば、一律に何年の間にこれだけうまくなろう、などとは少しも考えないわけです。

 

 にもかかわらず、何年間かの間にこれだけのカリキュラムを履修しなければならないミッションを負わされ、常に人と比較されることを強いられる児童・生徒と、ミッションの手助けをしなければならない先生の双方には、改めて考えてみれば、相当の無理と重圧がかかっているような気がします。

 

 その気になれた時には、勉強にきちんと向き合えるようになる子どもたちも相当の数いるのではないでしょうか。人類には、それを待てる教育システムと、それを保証する採用制度を含む社会体制を"発明"する知恵と能力はないのでしょうか。(重)

 


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(2020年11月27日 12:35)
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