SDGs活動を伝え、広がる交流(東京・杉並区立中瀬中学校)

 

 読売新聞が展開する「SDGsチャレンジ校」のネットワークを通じて、高校生が自分たちの活動を中学生に伝え始めた。地域や大人を巻き込んで活動を広げていく先輩の姿を見て、大きな刺激を受けた中学生たち。SDGsに取り組む学校間の交流が広がりを見せている。(教育ネットワーク事務局・石橋大祐)

 

SDGsチャレンジ校 

 学校のSDGs活動を応援する取り組み。2023年1月現在、全国約540校、14万4000人が参加している。21年度には、「ジェンダー平等」に力を入れるイケア・ジャパンの社員が、全国の「チャレンジ校」5校で、同社の取り組みを紹介する授業を行った。正則学園高校と明星高校の生徒たちは、スウェーデン大使館にペールエリック・ヘーグベリ駐日大使を訪ね、同国のSDGsの取り組みや、ジェンダー平等実現に向けた国民の意識などについてインタビューした。チャレンジ校の登録は無料。参加申し込みはこちらから。

 

LGBTQへの理解深めるため

 

 「LGBTQ(性的少数者)の人たちを周りが理解し、居場所を作ってあげることが必要です」

 

 2022年11月29日、明星高校(東京都府中市)の井上萌衣(めい)さん(3年)が、杉並区立中瀬中学校で開かれた「特別授業」の講師として、同中生徒たちに語りかけた。LGBTQへの理解を深めようと高校の仲間と4人で活動する井上さんは、互いに認め合い、尊重し合うことの大切さを、グループワークも交えながら説明した。

 


 特別授業は同年7月にも開かれ、正則学園高校(千代田区)でSDGs活動に取り組む生徒会のメンバーら13人が講師を務めた。前生徒会長の鈴木希典さん(3年)は、全校生徒からオンラインで意見を募る「目安箱」について説明。目安箱に寄せられた「学校の自動販売機から出るペットボトルの再利用」というアイデアを企業とも交渉しながら実現した話に中学生たちは興味深そうに聞き入った。
 

 

 

自主性育む学年横断グループワーク

 

 同中は「『生徒に~させる』学校から、『生徒が~する』学校」を目標に掲げ、18年から総合学習の時間に1~3年生が一緒に行うグループワークを導入した。異学年の対話を通じて、自主性を育む狙いで、香西雅斗校長は、「10年後、20年後に、地域、日本、世界を創る人材を育てていきたい」と語る。

 

 グループワークはコロナ下で中断したが、今年度から再開。再開にあたり、外部からの刺激で学びへの意識を高めてもらおうと、チャレンジ校の「先輩」である正則学園高と、明星高の生徒を講師に招いた特別授業が実現した。

 

 高校生たちにとっても特別授業は貴重な体験だったようだ。明星高の井上さんは、「授業をきっかけに、マイノリティー(少数者)の気持ちに立って考えられるようになってほしい」と話す。同高の松村優人さんも、「地域や社会にLGBTQ+の存在や、現状を知らせることからス タートしてほしい」と力をこめる。。

 


 授業で話した正則学園高の深野晃正さん(3年)は21年、読売新聞の「くらしにSDGsプロジェクト」でスウェーデン大使館を訪問した。ペールエリック・ヘーグベリ駐日大使の「日本の高校生も積極的に様々なことに参加してほしい」というメッセージを胸に地元・埼玉県越谷市の町おこしにも取り組んできた。「多様な意見を交わし、尊重し合うすてきな時間だった」と授業を振り返る。春からは大学生。より活動の幅を広げるつもりだ。
 

 

「あんな風に活動してみたい」

 

 自ら課題を持ち、解決のために活動する高校生の姿に、中学生も大きな刺激を受けた。中瀬中1年の女子生徒は、「カッコイイ。私もあんなふうに活動してみたい」と思った。

 

 小学校時代にジェンダー平等をテーマにした授業を受けたこともあり、男女の役割分担などの「思い込み」から自由になることの大切さも学んだ。特別授業を受けて「LGBTQを知識として学ぶだけじゃなくて、悩んでいる人がいたら助けになれるようになりたい」と表情を引き締めた

 

 

 特別授業の後、ある3年生が進路について熱心に質問する姿が印象的だった。「近い世代の活躍を見て次の一歩が明確となり、意欲が更に引き出された」。同中のグループワークをサポートしてきた合同会社Active Learners(杉並区)の米元洋次共同代表も手応えを感じている。

 

 「生徒が先輩や社会人の姿から学んでほしい」と香西校長。SDGsの課題解決に向け、問いを立て、仲間と考え、行動する――。「先輩」の姿を追い、中学生たちのチャレンジが本格化しそうだ。

 

講師を務めた生徒の声

竹内菜々美さん(明星高) 中学生の皆さんが、自分の意見や考えを異なる学年の中で話していて感動しました。今回の講演をきっかけに、「 LGBTQ+について理解が深まった」と言う声を多く頂き、私たちが目指す、「多様性を尊重する社会」の実現に近づけた気がします。

 

藤井日菜乃さん(明星高) 自分たちが今までやってきたことを多くの人に共有する事ができ、とてもいい経験になりました。中学生の皆さんの率直な意見や疑問などもワークやアンケートを通して多くいただくことができ、自分の成長にもつながったと考えています。

 

鈴木希典さん(正則学園高)当事者目線で身近な課題解決に繋がるような意見を聞くことができ、生徒同士が意見を聞き合う状況は素晴らしかった。中学生の斬新なアイデアが学校や地域を新しい環境へ発展させることができると期待を持つことができました。

 


(2023年2月 7日 17:01)
TOP