あなたの色を出しましょう《記者のじぶんごと》

30.


 「リクルートスーツって、黒じゃないといけないのでしょうか?」

 

 大学3年生の就職活動も本格化。「早期内定」を得たという声も耳にします。冒頭の質問をくれたのは大学2年生。早期化・長期化が言われて久しい就活への備えも、どんどん早まっています。

 

 説明会や選考で「服装自由」をうたう会社も増えています。「個性」を試されているのかもしれない。でも、「悪目立ち」もしたくない。コロナ下の大学生活でコミュニケーションに不安を抱える就活生たちの不安も多様です。結局は、「リクルートスーツの色を理由に落とされるような会社なら、内定できなくてもいいじゃない」と無難な答えになってしまいます。

 

 早期化と言えば、小学生のランドセル選びも早まっているようです。まだ5歳の長男に展示会の案内が届きました。1年以上先なのに......と戸惑いながらも、「人気商品はすぐ無くなってしまうかもしれない」と思い直し、2月上旬、家族で会場に足を運びました。

 

 男子は黒、女子は赤が定番だった私たちの時代に比べ、形も色も様々な製品が並びます。長男が迷わず走っていったのはピンク色のコーナー。「めっちゃかわいーじゃん」と目を輝かせ、次に向かったのは紫色のコーナーです。周りにいるのは女の子ばかり。「男の子だからこっちの色も見てみようよ」と声をかけようとしたときに、ふと思い浮かんだのは、LGBTQ(性的少数者)に関する理解を広げようと活動する高校生の言葉でした。

 

 「戸惑ったとしても、まずはいったん受け止めてあげてください」

 「男の子なのに」とか、「女の子なのに」とつい言いたくなってしまうかもしれない、周囲が思う「当たり前」については否定できない。でも、「男の子なのに」「女の子なのに」と頭ごなしに言われることで、当事者は深く傷ついてしまうこともあるから──。「多様性」という言葉を頭では理解しているつもりでも、いざ直面してみると、複雑な思いが巡ります。

 

 「別に男の子がピンクだっていいかもしれないね」

 勇気を奮って、そう妻に話しかけようと思った矢先、「山手線だ!」と歓声を上げて長男が駆け寄ったのは、黒地に鮮やかな黄緑色のラインが入ったランドセルでした。「これにきーめた!」と大はしゃぎです。親が気をもむのをよそに、結局は大好きな電車の色に落ち着いた長男。大きくなるに従って、周囲の「当たり前」に違和感を抱くことも増えていくかもしれません。そんな時に、どう受け止めてあげればいいのだろう。そしてこの子はどんな服装で「個性」を主張するのだろう。でも、その頃にはきっと、「リクルートスーツ」や、「就活」なんて言葉が無くなっているんでしょうね。

(石橋 大祐


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(2023年3月14日 14:13)
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