コロナ禍にクレジット決済はなぜ普及しないのか《記者のじぶんごと》

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 コロナ禍でテレワークを始めて1年以上が過ぎた。生活の中で大きく変わったことのひとつが、現金を極力使わなくなったことだ。自宅勤務を機に「拝命」したスーパーでの食料品の買い物では、必ずクレジットカードを使う。レジ横の機器に差し込めば支払い完了だ。もちろん、出入りの際のアルコール消毒も欠かさない。

 ところが、このスーパー隣にある医薬品チェーン店では、クレジットカードは使えるものの、「4桁の暗証番号を押してください」と言われる。不特定多数の人が触る機器のボタンを指先で押さなければならない。この店には店頭の消毒液もない。不思議に思っていると、数か月後、お店の人の方から「暗証番号は不要になりました」と声をかけられた。

 回転すしやレストランなどのチェーン店では、「カードを貸してください」とレジ担当者から言われるケースが多い。レジのカードリーダーが、カードを差し込んで読み取らせるタイプだからだ。自分のカードを他人が触るのも、他人のカードを触るのも、今の時期は抵抗がある。が、これらの店はその後も変わる様子はない。

 とはいえ、自宅での食事ばかりでは、さすがに気が滅入る。そこで、使い始めたのがスマートフォンのキャッシュレス決済サービス。これなら、バーコードリーダーを読み取るなどして、すべて非接触で支払いが完了する。

 

 しかし、こういう店はキャッシュレス決済ができるだけ、まだましだ。頑固なまでに現金主義を貫くのが、薬を処方してもらうためだけに行く診療所と、定期検診のために行く歯科医院だ。最寄りの大学病院はクレジット決済が可能だから、医療機関がクレジット決済をしてはいけない法律上の障害があるわけではない。決済手数料が医療機関側の負担になり、クレジット決済を導入してもそれほど新しい患者が増えるわけではないと見ているためらしい。

 日本の医療界では、オンライン会議システムを使った遠隔診療もなかなか進まない。遠隔診療の診療報酬が対面診療より安いからというのは理解できるが、少なくとも患者ファーストではない。国産のコロナワクチン開発が遅れたのも、この延長線上にあるのではないか。

 

 野村総合研究所による調査「キャッシュレス化推進に向けた国内外の現状認識」(2018年)によると、16年における日本のキャッシュレス比率は19.8%。お隣の韓国の96.4%とはかなりの開きがある。韓国ではキャッシュレス決済時の消費者向け税還付制度の拡充(還付率や対象の拡大)、小規模加盟店向け加盟店手数料の規制などが高い利用率の背景にはあるらしい。

 英国では68.7%。ロンドン五輪・パラリンピック(12年)を契機に、政府を挙げてデビットカードの普及促進を図ったという。翻って、日本。東京五輪・パラリンピック向けに、そうした施策がとられたとは寡聞にして聞かない。

 

 

 コロナ禍で見えてきたのは、いくら技術があっても使う側がメリットを感じないと、宝の持ち腐れになることである。現金が好きな国民性と言ってしまえばそれまでだが、使わせたい気にさせる努力と工夫が日本では、まだまだ足りないのではないか。

 我が国が科学技術立国と胸を張っていた日々が遠くなって久しい。この壁を突破するには「できない理由」ばかりあげつらうのはもうやめて、「どうやったらできるか」を考え、ただちに行動に移すことに尽きる。失敗しても別の方法を考えればいい。SDGs(持続可能な開発目標)の公式文書のタイトルは「私たちの世界の変革(Transforming our world)」。日本の場合、変革すべきは最近の私たちの心根のようである。(小川 祐二朗)


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(2021年8月 2日 16:00)
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