人口減解決の早道は?《記者のじぶんごと》

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 85歳になる実家の母が我が家に来たとき、三重県で子育てをした60年程前の話になった。味噌や醤油を切らしたら近所で融通し合い、電話はほかの家で借りていたこと。近隣の子ども達は一緒に遊んでいて、子どもを預けたり預けられたりが普通だったことなど、昔話に花が咲いた。

 日本のどの地域にもあった光景で、私も幼い頃の記憶に残っているが、平成の東京で育った24歳の娘には、一つ一つが新鮮だったようだ。「へえ、『井戸端会議』って本当に集まってやっていたんだ」「味噌や醤油の貸し借りって、実際にあったんだ」と驚いていた。

 コンビニも携帯電話もない暮らしは、デジタル世代の娘には想像できないようだが、近隣で助け合い、共同で子育てする関係性が育児の下支えになっていた暮らし方は、都会で孤独な育児をした私には羨ましく響いた。たった三代で、生活スタイルや育児の環境がいかに激変したかを、しみじみと感じた。

 

 

 2020年の国勢調査(速報値)で、日本の人口が減り続けていることが危機感をもって報じられた(読売新聞6月26日朝刊)。人口減少は10年以上前からで、子どもが生まれない少子化が加速している。

 終戦直後に年間270万人程だった出生数は、2019年には86万人になり、「86万ショック」と言われた。今回の調査は、2020年の出生数が84万人と過去最少になり、新型コロナウイルスの感染拡大で妊娠届が減っているため、今年は80万人を割り込む可能性があることを示唆していた。

 

 社会の持続的発展を目指すSDGsの理念は日本でも浸透し、環境やエネルギー問題などで関心が高まっているが、実は日本社会そのものの持続可能性に黄信号が点滅している。

 厚生労働省の人口部会で興味深いデータが紹介された。コロナ禍により多くの国で出生数が減ったが、西欧や北欧の国々では持ち直しの傾向が顕著だという。一方、パンデミックの死者数が少なかった日本や東アジアの国々で出生数の減少幅は大きく、持ち直しが遅いというのだ。

 

 そういえば昨年、スウェーデンでは「コロナ禍で仕事も学業もできないなら、今のうちに子作りしておこうか」と若者が話しているということを聞いた。児童手当や育児休業給付、保育制度などが充実し、「安心して産める」感覚が国民に浸透している国では、そんな話になるのだとびっくりした。子育て政策が充実した国々では、核家族化や都市化が進んでも、政策が子育てを下支えしているのだろうと感じた。

 フィンランドで初の女性大統領を務めたタルヤ・ハロネン氏にインタビューした際、「家族の問題を国会に持ち込んだのは女性議員たちだった」と話していたことを思い出す。保育所の整備をはじめ子育て政策の充実は、女性議員の増加とともに進んだのだと教えられ、少子化を改善させた国々でジェンダーギャップの克服も進んでいることは、偶然ではないと知ったのだった。

 

 日本も生活や育児の環境が変わり、「女性も普通に働く国」になった。少子化を改善し、社会の持続可能性を高めたいなら、実は政治のジェンダーギャップの是正こそが早道なのかもしれない、と改めて思う。

 待機児童対策、少子化対策、男性の育休取得促進策など、いろいろな努力がされているが、その効果を高めるためにも、様々な国の取り組みから学ぶことがまだまだあると感じる。(榊原 智子)


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(2021年7月21日 10:05)
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