わきまえている場合じゃない《記者のじぶんごと》
03.
子どものころ、部屋のサッシ窓を閉め忘れたままエアコンを運転していて、「地球を冷やしてどうする」と帰宅した父親に小言をくらったことが何度かある。地球を冷やすどころか、エアコンで屋内の温度を下げれば下げるほど地球温暖化につながると知ったのは、かなり後のことだ。これだけ各地で豪雨被害が相次ぐと、地球全体を冷やして異常気象を食い止めるような装置がないものかと思ってしまう。
国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の作業部会が、世界の平均気温が産業革命前に比べて今後約20年間で1.5度高くなると推計する報告書を出した(8月10日読売新聞朝刊)。この数字は各国が最善の対策を進めた場合であって、対策を講じなければ2081~2100年に上昇幅は4.4度になるという。
温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇幅を18世紀の産業革命前に比べて2度未満に抑えることを目指し、1.5度に抑えるよう努力することになっている。目標達成は当初から困難と見られていたが、さらに道は険しくなった。
だが、希望がないわけではない。温暖化に危機感を持ち、行動に移す若者たちについての記事が増えていることだ。〈二酸化炭素を減らすために自転車に乗ろう〉と手書きした段ボールを自転車の前に掲げて千葉県から京都市まで550キロを走破、環境関連の会議で温暖化対策の強化を訴えた16歳(1月12日朝刊)。公共交通の利用推進などを求める提言書を大阪府に提出した大学生らのグループ(3月19日夕刊)。学校などに再生可能エネルギーを導入する活動への支援や「若者会議」の設置を市長や知事に提言した浜松市の中学・高校の生徒たち(5月20日夕刊)。いずれも、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(18)の運動「未来のための金曜日」に共感しての取り組みだ。
グレタさんは15歳のとき、毎週金曜日に学校を休んで国会前で温暖化対策を訴え、2019年9月の気候行動サミットでは各国首脳を前に「私たち若者世代を裏切るような選択をするならば、絶対に許さない」とスピーチした。
グレタさんが環境活動家として知られるようになるにつれ、反発の声も大きくなった。「学校を休んでまでストライキをするべきではない」「もう少し穏やかな言い回しで主張したほうがよい」「不安をあおっている」──。だが、それらは彼女の主張を帳消しにするほどのことなのか。批判の多くは、グレタさんが「わきまえていない」からというのが理由のように思える。
今年7月、イタリアのナポリで開かれた主要20か国・地域(G20)気候・エネルギー相会合では、「産業革命前と比べた気温上昇幅の目標値を1.5度とする」などの項目についての議論が紛糾した。7月25日の読売新聞は、「米主導に中印反発 温暖化対策 深い溝」の見出しで、「温暖化対策のペースを巡る先進国と新興国の対立が改めて浮き彫りになった」と伝えている。特に中国やインドの反発が強く、議長国イタリアのロベルト・チンゴラーニ環境相は「議事の進行を何度も止めて1対1で話し合った」という。
対立がなければ、それに越したことはない。だが、合意したようにみえて実態は変わらないケースはいくらでもある。であれば、時や場所をわきまえずにとことん議論して、歩み寄れない理由を可視化することが重要だ。それが明確になれば、若い世代からも含めて様々なアイデアが出てくるはずだ。
もちろん地球が猶予してくれるだろう時間は限られている。しかし、一気に地球を冷やす魔法の杖がない以上、アイデアを積み重ねていくしかない。メディアが出来ることは、それぞれの立場からの声を丁寧に伝えていくことだ。それが分断の芽を摘み取ることにつながるだろう。(橋本 弘道)
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