2030 SDGsチャレンジ

じぶんごとからはじめよう

耳をすませば《記者のじぶんごと》

04.


 「ホーホケキョ」と鳴くウグイスの仲間に、ヤブサメという夏鳥がいる。名前そのままに藪の中に潜んでいることが多く、なかなか姿を見せない。見つけ出す手がかりになるのがさえずりで、昆虫のように「シシシ......」と鳴く、らしい。

 

 らしいというのは、私には最初から聴こえたためしがないからだ。「ほら、鳴いてますね」と同行の人に促されても、聴こえない。それが40歳前後のできごとだった。

 

 思えば、1980年代の学生時代、歩きながら音楽を聴ける流行りの機械でロックの大音量を耳の中に流し込んでいた。聴こえづらくなったのは、その結果だと、後に認識した。治療法はないということも後日知った。

 

 加齢の影響もあるだろう。ものは試しと、「ヤブサメ」と「ヘルツ」でネット検索したら、同じ境遇に悩む日本鳥学会所属の研究者によるエッセーが上位にヒットした。それによると、ヤブサメのさえずりは、8000ヘルツ〜1万ヘルツ。人間は20ヘルツ〜2万ヘルツまで聞こえ、十分聞こえる音域にあるという。一方、手元の野鳥図鑑によると、ヤブサメのさえずりは他の小鳥より2~3倍くらい高音で、「人によっては聞き取りづらい場合がある」と、気配りの効いた記述になっていた。

 

 私の場合、健康診断では「問題なし」の判定だが、最近は日常会話で聴きとりづらいことが多くなった。たとえばTV。私の連れあいは逆に音が聴こえすぎて高音だと頭痛の原因となるというので、一緒に観ないようになった。お互いのためだ。

 

 そんなとき、「字幕付きCM 全国拡大」(2021年8月11日)という夕刊の記事を見つけた。難聴者向けとして、TVコマーシャルに字幕をつける試みが本格化するのだという。SDGsの視点から導入は欠かせないとも書いてある。

 

 

 ユーチューブなどで字幕がつくが、日本語として意味不明なものが多く、逆に理解を妨げるため、その設定はオフにした。AI(人工知能)と呼ぶには戸惑いが残るプログラムでは、さまざまなテーマからなるTV番組での口語(会話)を文語(活字)に変換するのはまだ難しいのだろう。だから、人の手によるCMの字幕は朗報なのだ。

 

 こうした辛さは、当の本人しかわかりづらい。大腿骨(だいたいこつ)を折った時は、最寄りの地下鉄の駅にエレベーターがないことが恨めしかった。「転んだらまた折れる」と主治医から釘を刺されていたからだ。折った方の足を上げたまま、せり上がっていくエスカレーターに松葉杖を2本同時に突くのは勇気が要った。特に雨の日の松葉づえは滑りがちで、正直怖かった。

 

 街を歩くと、白杖の人、車いすの人、盲導犬や介助犬を連れている人たちに出遭う。ちょっと想像力を働かせ、「じぶんごと」にすると、街のあちこちに残る「バリア」が見えてくると実感する。東京パラリンピックが開幕した。日本社会は、まだまだやさしくなれる余地がある。(小川祐二朗)

 


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(2021年8月25日 09:48)
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