2030 SDGsチャレンジ

じぶんごとからはじめよう

【海プラ問題】コロナ禍で見えたSDGsの課題と未来

小川祐二朗

読売新聞教育ネットワーク事務局

 

「つくる責任 つかう責任」の難しさ

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた政府の緊急事態宣言以来、テレワークを続けている。取材や大学講義などもオンライン会議システムを使って自宅から簡単にできた。むしろ、大幅な時間削減が可能だ。期間中、外食もほぼしなくなった。頼りは自宅前にあるスーパーだ。

 そこで最も困りはてたのが、商品から次から次へとはがしては捨てるプラスチック容器。マイバッグを使うにしても、プラ容器はスーパーから自宅に運ぶや否やゴミ箱行だ。その寿命はわずか数分。最終的にはリサイクル・システムの破れ目から海に流れ出る。

 

自宅で出た1人1週間分のプラスチックごみ

 生物進化と同じように、人間がつくりだす商品やサービスも環境変化(淘汰圧)に適応したものだけが生き延びる。プラスチックが地球上にあふれているのは、それだけ使い勝手の良い製品ということだ。レジ袋を有料化したぐらいではプラ問題の本質は解決できない(持続可能な開発目標=SDGs=の目標12=つくる責任 つかう責任)。テレワークをしなければ、頭で分かっていても実感できなかった現実だ。

 

 では、どうすればよいのか。いまも妙案は浮かばないが、そんなところに1人の高校生が「飛び込み営業」をかけてきた。「海洋プラスチック問題について、高校生が主催する高校生の研究プロジェクトをやりたい。支援してもらえないか」。片っ端から送ったというメールにはそう記されていた。さて、どうしたものか。たまたま東京大学にいる知り合いの研究者がこの問題を調べていることを知っていたので、両者をつなげた。そうした偶然から、この研究プロジェクトが動き出した。

近所のプラごみが集められると山のようになるが、ふだんは気にもかけない当たり前の風景だ。手前はペットボトル

 

変わる働き方、学び方

 コロナ禍で見えてきた私たちの近未来の姿もある。

 「新型コロナウイルスは、SDGsの達成をさらに困難なものにしている」。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は今年7月、SDGsの達成状況を示す報告書の発表に際し、こんな物言いで強い危機感をあらわにした。「そりゃ、そうだろう」。このニュースを目にした時、即座にそう思った。

 とりわけ、報告書が指摘する「貧困・医療・教育に関する数十年の前進を後戻りさせる」との現状分析は否定しようがなかった。感染拡大に歯止めがかからないいま、SDGsの貧困(目標1)と健康・福祉(目標3)、質の高い教育(目標4)は目標年である2030年までの達成が極めて難しくなったというのだ。

 

 しかし、である。

 その反対の事実にも、同時に気づいた。私たちは今回、コロナ禍に抗するために経済活動を嫌々ながらストップさせたが、SDGsの目標を達成させる可能性を期せずして証明してみせた。コロナ後もやりようによっては、同じことができるかもしれない。

 その一例が、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量抑制(目標13)だ。世界気象機関(WMO)によると、感染が急拡大した今年2月から4月まで、排出量の3か月平均は8%減。最大で17%で、2006年の水準まで減少した。今年1年間では4~7%減になる見込みで、金融危機が起きた08年の減少幅を大幅に上回るとみられる。

 

 欧米ではコロナ禍からの経済復興に向け、再生エネルギーや電気自動車など脱炭素社会の構築に集中投資する経済刺激策が注目されている。今はウイルスに強いられた末の成果だが、コロナ後は経済を回しながら人間の意思として排出抑制する。

 名付けて、「グリーン・ニュー・ディール」。世界恐慌を克服するため、米国が1930年代に断行したニュー・ディール政策のコロナ版で、SDGsの中でも難題中の難題である地球温暖化と経済格差(目標10)を一挙に解決しようという野心的な政策だ。

 

 日本が遅れをとっていた分野でも、嫌々ながらやってみたら実現できた事実がある。その原動力がオンライン会議などICT(情報通信技術)の急速な進歩(目標10)だ。

 たとえば、「なくすのは無理だ」と根拠なく信じこんでいた通勤や出張、転勤の意味(目標8)がいまや問い直されている。会社は地価の高い都市にある必要があるのか。地方からヒト、モノ、カネを吸引して日本経済を牽引してきた首都・東京の存在意義までもが揺ぎ始めている。

 それだけではない。学校での教育や教師のあり方(目標4)、使い勝手がすこぶる悪い医療制度(目標3)も変えられることがわかった。テレワークに代表される「新しい生活様式(ニューノーマル)」が広がるにつれ、家庭における男女の役割分担(目標5)についての凝り固まった思考さえも、リセットを迫られている。

 

 そう、ピンチはチャンスだ。これまでのやり方は変えられるし、実際に変えれば、「不可能」と思われたSDGsの目標達成も可能になるかもしれない。いま、そんな手ごたえを感じる。

 

 高校生たちの未来を賭けたこの研究プロジェクトの期間は来年2月まで半年間だ。プラスチック問題に業を煮やした大人たちはすでにあきらめ顔だが、この連立方程式を高校生たちならどう解くのか。若者たちのまぶしすぎる姿に目を細めながら、かたずを呑んで見守っている。

筆者の通勤用のバッグの中身。数冊のノートと財布、定期入れを除き、残りすべてがプラスチック製品をなにかしら使っている

海洋プラ問題を解決するのは君だ!~高校生×研究×社会問題解決プログラム

【募集人数】高校生と高専生100人

【活動方法】オンライン会議システムなどを使い実施

【活動期間】8月30日~2021年2月(約6か月)

 

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(2020年8月 1日 09:30)
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