SDGsトーク3(中)「ロールモデル」を育てよう
ごみ埋め立て地跡近くの海には東京五輪・パラリンピックの競技会場も多い。トライアスロン会場となる港区台場を訪れた小川祐二朗記者(右)と田中孝宏さん。撮影は秋山哲也
高校生たちが進めるSDGsの取り組みを語る今回の「SDGsリレートーク 『じぶんごと』からはじめるために」。科学取材を長年続けてきた、読売新聞教育ネットワーク事務局の小川祐二記者と、教育ネットワーク・アドバイザーの田中孝宏さんの議論は、学年を超えたSDGs教育の実践法から、「横並び」を意識せざるを得ない学校現場の根源的なジレンマへと、話は一気に進みます。
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小川 私は今春まで大学で講師もやっていたのですが、SDGsの問題を考えるヒントがそこにもありました。どうしても大学の旧来の「講義型」だと、学生の理解が十分に進まず、参加意識が「熟成」しないんですよ。
オンライン講義の中でという制約はあったのですが、一方的に教えるというスタイルをやめて、グループごとの分室をつくる機能を使って、グループ学習を取り入れてみました。その中のテーマとしてSDGsの課題を一つ与えてみて、学生たちが調査をする。その結果をプレゼンテーション(発表)して、それに対する疑問点を私から指摘するという形式にしたんです。
私だけでなく必ず学生にも、チャット(活字によるおしゃべり)機能を使って最低でも1問は質問が出るようにさせました。すると、一方的な講義だった時とは異なり、彼らにも主体的に関わるようになり、講義も動き出したんです。
──それはよくわかります。教育界でもよくある「調べ学習型」ですね。SDGsは講義型より、そのやり方がふさわしいのではないかと私は思っています。教育用語で言えば、SBL(Subject Based Learning=科目進行型学習)か、PBL(Problem Based Learning=問題解決型学習)かという問題ですね。
これからはPBLが必要だろうと、私も常に感じていました。高等教育では特にそうでしょう。小中学校では難しいかもしれませんね。そこはやはり、学習のコア(中核)的なものは学校サイドで作らなければいけないので。
小川 SDGsの学校での取り組みでネックとなるのは、やはりそこなんでしょうね。
──小中学校レベルでSDGsの実践などを取り上げるとなると、どうしても子どもたちの間で個人差が生まれてしまう。問題意識の差です。40人学級だったらクラスの40人全員が同じ問題意識を持つというようにはならない。そこが教育現場では難しいところだと思います。クラスのみんながどれぐらいの「熱量」を持っているか、ということも気になりますね。
小川 SDGsのコンテストなどを開催すると、応募してくるのは普段から社会問題などをよく考えている生徒や学生が多いということはあるでしょう。だからこそ、これを学校の中でやろうとなると、そこは難しいでしょうね。
──小川さんが関わる今回の海洋プラスチックをテーマにした研究プログラムは高校生が主役ですが、まだ中学生だけど自分たちもやりたいという生徒が出てくるかもしれませんね。年代や地域を混合させたグループを作った時に、年少の子どもたちを高校生が引っ張ってくれて、そのことで年長の子も伸びる。グループ学習を行う中で、同時に教育もできるというのが理想かもしれません。
小川 いや、実は中学生からもう応募があって...。どうしようかと思い悩んでいるところです。
プラスチック分別処理過程を見学する小川記者(右)と田中さん(東京都江東区若洲の有明興業若洲工場で) |
──今回の研究プログラムに限らず、今後、SDGsを考える時にはもっとタテの関係を意識した方がいいかもしれないですね。それこそ年齢を超えて、いろいろなことを考えてあげないといけない。小中学校、高校という枠組みを超えて、大人も加わってみんなで考えるような仕組みを作らなければ、SDGsは継続もしない。それこそSDGsが掲げる「持続可能」を目指すのであれば、「学校を卒業したら、活動は終わり」では、そもそもSDGsが続いていかないですからね。
小川 近く新聞でも取り上げたいと思っているのですが、ある企業グループが運営している学童保育的な「塾」が参考になるかもしれませんね。彼らはそこで「フィールドワーク」的な実証実験のような学習をやっていて、そこに通う子どもたち向けのプログラムを高校生たちが塾のスタッフと協働しながら作ろうという試みをやっている高校があります。高校生が小中学生を教える、いわゆる「ロールモデル」が生まれるきっかけになるのではないかと感じますね。そう指摘したら、担当の先生が「まさにそうなんです!」と言っていましたから、彼らもそこを目指しているようです。
──高校生が小中学生たちを引っ張っていくというのはいい発想ですね。異なる年齢層がいっしょに学ぶという発想をどんどん広げていけば、教育も変わっていくかもしれませんね。
公立の学校ではいま、多くの自治体が一生懸命、小中一貫教育などを掲げていますが、それこそ小川さんが言われるような発想を、こういうところに活用していければいいのではないかと感じますね。あまり大きな声では言えませんが「小中一貫」と言ってみても、何か驚くようなことをやっているというところは少ないなというのが実情だと思うんですよね。
小川 学校現場でようやく動き出そうとしているICT機器を活用した教育も、実は同じようなことがいえるのではないでしょうか。新型コロナウイルスの感染拡大で、子どもたちは登校できない状態が長く続き、教育現場はまさに「冬眠状態」になってしまいました。
その一方で、一部の学校は競い合うようにオンライン授業をどんどん推し進め、対照的にICT教育が進んでいない学校との差が大きく広がったという実情もある。打つ手がなく手をこまねいていたという学校も少なくなかったのでは。
──公立の学校でも、オンライン授業への適用は、やろうと思えばできるんですよ。でもややこしいのは、一部の小学校が先んじると、「だったら、その隣の学校はどうするんだ」という声が必ず上がることなんですね。公立校の基本、大原則はなんといっても「平等」ですから。
一部の学校だけ能力が高いからできてしまうというのは、それが民間企業同士の競争のようなものであれば許されるのかもしれませんが、公立の学校ではそうはいきません。やるのであれば、皆一斉にやるというのが、そこが実は一番のネックになっているんですよ。一部の学校だけうまくいってしまうと、当然のことながら「平等」を求めて不平不満の声が上がる。
そうなると行政も、ペースをそろえるために先駆的な学校にはブレーキをかけざるを得ない。もちろん予算にも限度があるから、全校一斉にというのも難しいとは思います。だからといって、順次広げていくとなるとどれだけ時間がかかるのか......。
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