2030 SDGsチャレンジ

じぶんごとからはじめよう®

SDGsトーク4(中)「もったいない」は敬う心

 先生や専門家たちからSDGs(持続可能な開発目標)にまつわる話を聞く連載「SDGsリレートーク 『じぶんごと』からはじめるために」。絵本「もったいないばあさん」で大人気の絵本作家、真珠まりこさんと、読売新聞教育ネットワーク事務局アドバイザー、田中孝宏さんの対談は、創作過程で考えた水や命の循環などにも及びました。

 

まとめ:住吉由佳(教育ネットワーク事務局)


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田中 ガンジス川だけでなく、日本の川も見に行かれたそうですね。

 

真珠 最新刊の絵本「もったいないばあさん かわをゆく」を作るために、川の始まり、最初のひとしずくが見たくて、日本で京都・鴨川の源流を見に行きました。ガンジス川の源流は氷河が解けてざーっと流れ出るところなので、川の赤ちゃんが「ぴちょん」と生まれるところへは、日本で行こうと思っていたんです。

 

田中 鴨川の源流は、京都の山の方ですね。

 

真珠 川の始まりは、伏流水となってわき出るところや、岩の間から滲(し)み出るところが多く、始まりの一滴が見られる場所って、なかなかないんですよ。それがみられる貴重な場所、京都駅から車で1時間くらいの山のお寺、志明院に伺いました。ちょうど新緑のシーズンで、生きものたちが生まれる季節。小さい葉っぱの赤ちゃんが若葉色でみずみずしくて、小さいカエルもいて、虫や鳥や、風の音、水の音、葉っぱが揺れる音、新しい命がみんなキラキラ笑っているようでした。

 

田中 いい時期に行かれたんですね。

 

真珠 みんなが生まれたこと、生きていることを喜んでいるように感じたんです。その時、「生きものの赤ちゃんというのは、この世に生を受けたことを喜ぶべき存在なんだ」という風にも思いました。「赤ちゃんたちは、生きものたちが生まれたことを喜んでいる象徴。そうじゃないのはもったいない」というのがストンときて、「もったいないばあさん かわをゆく」のストーリーにつながりました。ぴちょんと生まれた川の赤ちゃんは、流れながらいろいろな生きものの赤ちゃんたちに出会っていく。上流の赤ちゃんは笑っているけど、下流に行くと泣いているよ、いいのかい?という流れができました。お寺の上の祠(ほこら)では、岩の天井からしずくが滴り落ちて、川の始まりが見られました。空海がその祠(ほこら)で過ごしていたことがあると、お寺の方に伺ったのですが、「この一滴一滴が、都の人たちの命を守る水になる」という言葉が残っているそうです。そうやって絵本のストーリーを考えるうちに、「水のつながりは、命のつながり」だと思うようになったんです。

 

田中 このSDGsトークで取りあげると、この絵本「もったいないばあさん かわをゆく」の中身はごみ問題、プラごみだ、って思われたらちょっと困るな、って感じていました。

 

真珠 ありがとうございます。そうなんです。これは私、ものすごく言いたいことで、ごみの話題として取り上げられたり、シリーズの他の本もSDGsの本だと言われることもあるんですけど、自分はごみやSDGsの本として作ったのではなくて、子どもたちに読んで楽しんでもらう絵本のつもりで作りました。絵本は心を育てるものだと思うんです。「もったいないばあさん」を読んだらSDGsが分かるというのではなく、絵本を読むことで、もったいないと思う心、SDGsを進めるための心をもってもらえたらと思います。

おはなし会で読み聞かせをする真珠まりこさん(2019年10月、北海道で)

 

田中 SDGsっていう大きな目標を立てなくても、人の世の中で当たり前にやっていること自体をきちっとすれば、SDGsにつながっていくと思っています。

 

真珠 素晴らしい。

 

田中 この間、リレートークでお話した新渡戸文化中学校・高等学校の山藤旅聞先生(同高校教育チーフデザイナー兼統括校長補佐)も、SDGsは目標であり、方法ではないとおっしゃっていました。真珠まりこさんの本も、命などへの思いで描かれた本で、その内容が、SDGsにつながっていっている。でも今、SDGsを教育内容としてだけ取り組む方が多くて、それはSDGsを知る学習であって、その目標を達成するための学習でなくなってしまっている。

 

真珠 「もったいないばあさんのワールドレポート展」という展示会を2008年から開催しているのですが、今地球で起きている問題は、命を一番に考えていたら起きなかったと思うことばかり。命の大切さを伝えるもったいないという言葉のメッセージとともに、問題と私たちがどうつながっているのかを伝えて、「どうしたらみんなで幸せに暮らしていけるかをもったいないばあさんと一緒に考えていきましょう」ということをお話しています。私は、それがSDGsと同じ目標だと思うんです。「自分とどう関わっているかを知ることで、人々は自分に何ができるんだろうと考えるようになる。だからあなたのこの活動はすごくいいと思う。がんばって」と、亡くなられたノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんにも励ましていただきました。「自分さえよければと思わず、分け合う気持ちがあれば平和な世界ができる。できることをやらないなんてもったいない」と、「命はすべてつながっていて、ひとつひとつの命が大切なんじゃよ」というのが、もったいないばあさんのワールドレポート展で一番大切な二つのメッセージなのですが、私は、もったいないの心があれば、世界は平和になると思うんです。

もったいないばあさんのワールドレポート展

地球上で起きている問題と私たちの暮らしがどうつながっているかを、もったいないばあさんと考える展示会。2008年から始まり、真珠さんが会場で子どもたちに話す内容を掲載した「もったいないばあさんと考えよう世界のこと」(本とDVD)、「もったいないばあさんと考えよう・生きものがきえる」(本)も出ている。http://marikoshinju.com/content/worldreport/

ワンガリ・マータイ

(Wangari Muta Maathai、1940年4月1日 - 2011年9月25日) ケニア出身の女性環境保護活動家、政治家。2004年12月、「持続可能な開発、民主主義と平和への貢献」で環境分野の活動家およびアフリカ人女性として初のノーベル平和賞受賞。

 

田中 SDGsの目標を達成するためには自分はどうしたらよいかを考えること。その心を耕すようなことを社会がやらなきゃいけないんじゃないかなと、すごく思います。一人一人が自分の課題としてSDGsのような現代課題を持つためには、心を耕さなきゃいけないから、こういう本がどんどん広がっていけばいいな、大事にしたいなと思います。

 

真珠 そう言ってくださりうれしいです。「もったいないばあさんの てんごくとじごくのはなし」という絵本があるのですが、この本には、もったいないばあさんのワールドレポート展でずっと伝えてきた、「自分さえよければと思わず、分け合う気持ちがあれば」というメッセージがあって、思いやりと分かち合いがテーマになっています。新型コロナウイルス以降大変な世の中になりましたが、こんな時だからこそ、読んでいただけたらよいなと思います。

もったいないばあさんの てんごくとじごくのはなし

2014年、講談社刊。作/絵・真珠まりこさん。もったいないばあさんが、天国と地獄を見に行き、スープの食べ方の違いを語る。

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(2020年9月23日 10:00)
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