2030 SDGsチャレンジ

@スクール・学校の取り組み

SDGsトーク2 (上)活動を支える「動機付け」

本川先生(左)と語る田中孝宏・読売新聞教育ネットワーク・アドバイザー(東京都千代田区で)

 国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)を達成するために、教育でできる方策を探る「SDGsリレートーク 『じぶんごと』からはじめるために」。今回登場していただくのは、正則学園高校(東京都千代田区)の本川太郎先生です。今年3月まで現役の小学校長だった田中孝宏・教育ネットワーク・アドバイザーとの熱いトークは、「じぶんごと」の実践から教科教育の考え方まで多岐にわたりました。

 

聞き手:田中孝宏(教育ネットワーク・アドバイザー)

まとめ:吉池亮(教育ネットワーク事務局長)


 

──元小学校長としてまず聞きたかったのは、高校でのSDGsの実践ですね。本川先生の学校では、どのような取り組みをこれまでしてきたのでしょうか。

 

本川 SDGsといっても、最初は手軽に始められるような「環境」を意識した取り組みからでした。たとえばペットボトルのキャップを回収することといったことでしたが、SDGsの取り組みといっても、これではそもそも「分母」が大きすぎる。やっている子どもたちも、ただ「回収してくる」というだけになってしまい、どうしてもその活動の「中身」、どうしてそういうことをやるのかというところまで全部の生徒たちに伝えきるということができなかったという反省がありました。

ほんかわ・たろう

1977年生まれ。2000年より正則学園高校教諭。現在は3年生のクラスを担当中。部活動は、鉄道研究同好会、現代視覚文化研究同好会の顧問を務めている。

 

──それ、わかります。私の小学校でも「雨水タンク」の活用でも同じ経験をしました>>SDGsトーク1[下]。そういう取り組みをはじめてみても、子どもたちはやってはくれるけど、なぜ取り組まなければならないのかというところまでは、十分に理解してくれているとはいえない。

 

本川 そうです。その上、うちの場合は高校生ですから、それこそ新聞やテレビの報道で知識を得たり、自分でインターネットで調べたりと、知識を入れることはかなりのことができるのですが、やはりその取り組みを「なぜやらなければならないのか」ということを本質的に理解することにつながらない。要するにどうしても「他人事」になってしまうんですよね。アクションはあっても、それがその次のステップの「学び」につながっていかない。どうしても一過性で終わってしまう。それをどうしたらいいのか、ずっと考えてきました。

 

──まさにどうやって「自分事」につなげていけるかですね。

 

本川 そこで、今度はもう少し実践的にやるように心がけました。生徒会の活動の中でペットボトルのキャップ回収のことを調べていたら、ワクチンに換えて途上国の子どもたちに届けられていることがわかりました。そして、途上国の子どもたちのことを調べていたら、飢餓貧困に苦しむ子どもたちがいることを思い出しました。生徒たちは国連児童基金(ユニセフ)の募金に参加はしていたのですが、あまり深く考えてはいなかったのです。

 そこで、飢餓貧困について調べているうちに、今度は世界食糧計画(WFP)の存在を知り、だったら活動拠点の一つ、WFPに話を聞いたらどうかということになりました。日本のWFPの窓口に電話をしたら会ってくれるというので、生徒たちを連れて行きました。

 実際にWFPの人たちが会ってくれると、そこでまたいい影響があるんですね。中東のシリアとかで最前線で活動されていた人の「生」のお話を聞くことで、子どもたちの目つきも変わってくるんです。いまどきの子どもたちですから、興奮して「先生、これ、やばいっすよ」などと言い出して(笑)。

 要するにペットボトルのキャップを回収しているという行為だけでは前には進まない。そこから先の「アクション」がないと。行動をしないと意味がないのだと子どもたちも理解してくれたようです。

 

──活動を続けるためのモチベーション、いわゆる「動機付け」ですね。そこが一番難しいところです。

 

本川 そうなんです。やはりどうしても教員が教える、生徒が学ぶというだけの、一方通行ではSDGsはダメなんだなと痛感しました。先生の言うことを聞くというだけでは、それこそ化学式を覚えるということと同じになってしまいますからね。

 

──先生の役割というのも難しいと思います。

 

本川 子どもたちにとって、最初はおもしろいことをやっている、興味があることをやっているという程度でいいんだと思います。でも、教員である私も、そこまで知識があるというわけではないから、とりあえずいっしょになって楽しむ。それこそインターネットで生徒といっしょに調べ物をしたり、団体に電話をかけたりとフラットなポジションを意識しながら積極的にかかわるようにする。高校生といえども、やはりどうしてもファシリテーター的な存在として大人が加わることは必要だということもありますから。そして、授業っぽさを感じさせないように、「教科教育」に縛られずに、もっと生徒たち自身が、SDGsは楽しいこととイコールなんだという「探求型」として成立させなければならない。そういうところを意識してやってきました。

 

──小学生から中学生までとはちょっと違うかもしれませんね。SDGsはどうしても高遠な目標という点もあるので、調べても知識を得るだけで終わってしまうケースもある。どうしても他人事で終わってしまうからこそ、自分がそこで何をすべきかということが見えるようにならないといけない。難しいところです。

 

本川 高校生の場合は、大学、専門学校への進学はあっても、もう次は社会に出るということを考えていかないといけない。自分たちが出て行く社会というものをどう意識してもらうか。高校の教員としては、SDGsの問題に限らず、そこを常に考えてきました。

正則学園高校のSDGs取り組み例

滋賀県・琵琶湖の周辺を覆うイネ科植物の「アシ」の群落を整備する地元の事業に参加した。大学でのワークショップなどでの事前学習を経て、現地で行われた大規模なアシ刈りに参加。その様子を取材し、「読売中高生SDGs新聞」の特別号外にまとめ上げた。

たなか・たかひろ

1960年生まれ。83年から小学校教諭。2020年3月まで東京都江戸川区立の小学校長だった。同年4月、読売新聞教育ネットワーク・アドバイザーに就任。

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(2020年6月29日 15:23)
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